アスファルトの女王
左の写真はライブのステージの一部だった。派手なメイクに赤や黒の衣装を纏った女がギターを抱えてマイクに食らいついている。
 右の写真は体育館の一角で、バレー部の集合写真だ。中央で金のメダルを首に掛けた女が楯を抱えて笑っていた。
 よく見ればその女は同一人物である。どちらの写真でも自信満々の笑みを浮かべ、どこか他人を馬鹿にしたような顔をしている。切れ長で意志の強そうな眼と漆黒の髪や白い肌が印象的だ。
 女には数ヶ月前まで、女王という愛称があった。黒の女王。白の女王であった女と全く正反対なことから、そう呼ばれていた。様々な卓越した才能と天性のカリスマ性を持ち、毒のある黒いイメージを持った女王。
「私は世界一幸せな人間なの」
 それが女の口癖だった。
 私は二つの写真立てを伏せると鏡を見た。
 がりがりに痩せた身体。腫れた瞼と眼の下に窪んだ隈。紫色の唇。手入れされていない中途半端な長さの髪。そして奇妙に曲がった左手の三本の指。どう見ても生きている人間のようには見えない。鏡にもたれると、顔がはっきりと見えた。
 元、女王。
 鏡の中に映った顔には、ごくわずかに二枚の写真の面影が残っていた。しかし誰がそれに気づくだろう。私はあまりにも変わり果ててしまった。
 そう、その二枚の写真の女はたった数ヶ月前までの私だったのだ。
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