kiss of lilyー先生との甘い関係ー
 みんな酔いが回りはじめて、人の出入りにこだわらなくなってきた頃、わたしはこっそり会場を抜け出した。階段を下りて通りに出る。

 待ち合わせた場所に彼はいた。

 アウディーA8を背に、わたしがバレンタインにダークチョコレートと一緒にあげたマフラーを巻いて立っている。

「お待たせ。車の中にいてくれて良かったのに、寒かったでしょう」

「いま気分転換に出たところだ。それより、すごく綺麗だよ。式典のときから思っていた」

 誠がわたしの袴姿を見て言った。

「ありがとう…だけど、もう限界」

 彼は苦笑いした。

「やっぱり苦しいのか、それは」

 そう言ってから、左手で夜風に当たって冷たくなったわたしの頬を暖めるように包んだ。わたしは彼の肩に手を添えて背伸びした。

 唇がそっと触れてそっと離れた。

「じゃあ早く帰って、袴も服も何もいらないことをしよう」

「それ賛成」
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