kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「リーダーという大事なポジションを決める厳格なルールは、 世界征服の野望のためにを作られたものなのに。このルールのおかげでことごとく征服を阻止されてるんだもん」

 僕もおかしかった。彼女の聞いた内容にではなく、彼女が800年前の縁もあかりもない土地で起こった事件のことで、ここまで笑っているという事実が。

「オゴタイとフラグは、どんな想いで帰ったんだろうね。だっていまと違って何週間も馬に乗り続けなきゃいけなかったでしょ、ヨーロッパからアジアに向かうなんて」

 澄んだ瞳で遠い過去を想っている。

 彼女の栗色の髪はソファの肘に乱れ、白くか細い腕は図鑑を抱きしめている。ロングスカートとバレエシューズの間からはアンクレットが覗いていた。いつも穏やかに微笑んでいるが、ふとした瞬間に物憂げな一面を垣間見せ、真剣な表情で読書に励んでいるかと思いきや、時に子どものように笑い出す。

 彼女は僕にない何かを持っている…いまでも”強く心惹かれているわけではない”と言えるのだろうか。
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