kiss of lilyー先生との甘い関係ー
「きみも子供の頃からずっと東京?」

「うん、ちょっと郊外だけど」

 わたしはパンにパテを塗って口に運び、先生は蟹のフリットを食べてまたちょっと驚いた。わたしたちが美味しいと言う度に、お皿を下げに来るボーイさんが嬉しそうに微笑む。

「そういえば一人暮らしなのに実家から通っているんだったな」

「往復三時間近く電車に揺られてる」

「ご両親は?」

「共働きで、別々に外国で働いている。ぜんぜん帰ってこないわ」

 アルバイトしなくても充分やっていける資金を提供してくれていて、感謝しているけど。

「大学の近くで一人暮らしをしようとは思わなかったのか?」

「考えたことはあるけれど、下手に近くて満員電車にもまれるより、小一時間座ってなにか作業できる方がいいと思って。それに気に入ってるの、いまの家。昔からお家が好きなのよね」

「じゃあインナーな文学少女だったわけか」

「文学少女…そんな知的な響きが似合うかわからないけど、インナーは当たりね。唯一やってたスポーツも屋内の水泳だったわ」

「いまでも泳ぐか?」

「全然…あ、話しを掘り下げてもわたしの過去に”デスクトップ分解事件”みたいな代物はないからね」

 先生は笑ってワインを飲んだ。

「じゃあいまの趣味は? 最近の関心ごとでも」

「うーん、洋画鑑賞かしら。ベタだけど」


・・・
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