kiss of lilyー先生との甘い関係ー
 彼女と出会ってから半年過ぎた秋の夜。

 今日に限らず最近は研究室に籠もりっきりだった。特に今週は学園祭の真っ只中で、準備期間も含めた一週間は講義がなかったから集中していた。

 僕はいま、ようやく携わっていたものを完成させた。学際は今日までで、明日からは通常授業になってしまうからギリギリだった。

 完成と同時に石村くんを思い浮かべた。そしてしかるべきところに完成の連絡を入れるよりも先に、彼女に伝えようと僕はiPhoneを手にした。

 しまった…

 携帯で連絡をとろうとして、連絡帳のなかに彼女の番号がないことに気が付いた。そういえばいつも決まった時間に会っていたから、連絡先を交換する必要性を見い出したことがなかった。

 一刻も早く伝えたいのに、今日は学祭だから学校に来ているかも分からない。

 学際最終日の夜…僕ははっとして研究室を飛び出した。

 今学期初めに石村くんと一緒に食堂で遅めの昼をとっていたとき、彼女は学友に誘われていた。

”最終日のフェスだけでも!ガールズバンドで出るんだ”

 しつこいミスコンの依頼をきっぱりと断り、出し物の参加も丁重に断り、模擬店の売り子もやんわりと断り…これ以上断り切れなくなった彼女はフェスだけは出席すると約束をしていた。

 僕は正面で繰り広げられる交渉をぼんやりと聞いていて、彼女から最後だけは参加するという返事を獲得した学生たちが去ったあと、お吸い物を啜りながら”大変だな”と声をかけた。石村くんはやつれた顔をしてお箸を持ち直していた。そのときは気の毒だなと思ったが、その一件があったからこそ今彼女のいる場所がわかる。

 研究室を出て本館へむかうと、バンドの大音量で演奏が聞えた。音が聴こえる方向から察するに、本館の地下だろうと駆けて行った。
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