夫婦ですが何か?








ーーーFIRST NIGHTーーー









不意に冷静な頭が何故こんな事になってしまったのかと問いかける。


それに更に冷静な自分が言い聞かせるように返していく。


千麻、コレは契約。


今までの仕事のそれと同じなのだと。


そう答えると今まで見て見ぬふりをしていた姿をしっかりとその目に映し込み、まず今まではこんな視点からは見たことの無かった姿に言葉を向けた。



「何をしているんでしょうか?」


「何って・・・新婚初夜だし?」



むしろ「何?」って何?


そんな感じににっこりと微笑み私を見降ろす姿に、ときめきも憤りもなくただ息を吐いて視線を逸らしてしまった。


背中のベッドの感触ばかりが私の味方で、この感触だけは素直に受け入れたい。


これから毎日この感触に横たわれるのか。とその事には少し心が歓喜した。


瞬間に強引に戻される視線に少し苛立ち。


顎に絡みついた指先が乱暴ではないけれど力強く自分に顔を向け直させて。


面倒だけど逆らうことなく視線を戻すと、映し込むのは見慣れてるとはいえ見目麗しいと言える男の姿。


他の女であればこの状況にどれだけ歓喜し自ら手を伸ばすのか。


他の女・・・ならね。


正直、女としてこの姿に男の魅力は感じない。


だから私にしてみればこの状況は全く興味のない、仕事の上の流れ作業に近い時間なんだ。


そして、いくら仕事でも折り合いのつかない事に黙って従う私でもない。


私と視線を絡めると宝石の様に綺麗なグリーンアイを細め、価値のありそうな笑みを惜しげもなく私に向けると顔の距離を縮める。


何を考えているのだろう。


彼だってこの結婚という文字に隠された本当の関係を理解している癖に。


またおふざけなのだろうかと小さく溜め息を吐くと、まだ間に指を挟む程の幅の位置でその唇を止めた。



「・・・・・おふざけですか?」


「新婚初夜の2人には必然じゃない?」


「まぁ、そこに愛があれば」


「ひとかけらも無い?」



そう言いながら今まで妖艶に見せていた表情をくるりと仔犬の様に切り替え覗きこんでくる姿の巧みな事。


でも私がそんなあなたにグラつくとでも?



「一切無いです。今あるのは同情でしょうか」



はっきりすっぱりと躊躇いも無くそれを口にすれば、呆気に取られた表情を見せた彼が今度は本当に困ったように頬笑み額を寄せた。


不覚にもその瞬間には少し心臓が跳ねる。



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