夫婦ですが何か?




「はぁ~・・・・はは、千麻ちゃんには参るなぁ・・・」


「傷口に塩でしたでしょうか?」


「少しね。だから傷心の旦那様を優しく受け入れ慰めるとかーー」


「無いです。むしろ意味がわかりません」




私を性質の悪い欲のはけ口にされたのでは溜まった物じゃない。


そもそもそんな内容含みでこの条件を呑んだつもりはない。


断固拒否するとまっすぐ見つめ上げるのに、尚も諦めていなさそうな美麗な顔が、私の阻んでいた指先をどけるとその距離を埋めた。


触れる唇。


さすがに一瞬息を止めたけれどそこまで焦るでもない。


自分の唇は開放的で酸素も吸い放題な状況で、だけども間近で捕らえる睫毛の長さに一瞬感心。


ああ、やはり・・・・精巧にできた美しさだと今更感じた。


でもそこ止まりなのだ。


まるで芸術品を見る感覚。


そしてこの人のなにが一番価値があるのかと言えばやはり・・・。



「ねぇ、・・・千麻ちゃん。・・・また何か意識他にお留守でしょ?」



不満げに向けられた言葉に意識をゆっくり戻していき、その事実に否定するでもなく彼を見つめ上げる。


そして称賛の対象であるグリーンアイを見つめた。



「キスしてる時ぐらい俺に意識してよ」


「はぁ・・・まぁ、頬に何か当たったな程度には」


「千麻ちゃん、もしかして俺の事本気で嫌い?」



さすがの彼も私の反応に僅かばかり焦り始め、今更な懸念を少し本気で確認してくるからどう答えようか迷ってしまう。


嫌い。


では・・・無いけれど。


好き。


でも・・・無い。


なんだろう・・・・無関心とも違う様な・・・。


当たり前?



「・・・・酸素?」


「はっ?」


「違いますね・・・水?」


「千麻ちゃん?ごめん・・・全然意味が分からない」



自分の質問に何故そんな答えが返ってくるのだろうと頭を抱え始めた彼が苦笑いで私を見つめ、そんな中も真剣に答えを探していた私もようやく結論にたどり着く。


ああ、やはり・・・。



「仕事です」


「・・・・・・」


「私がどう思っているのかと問われれば、【副社長】は仕事です」



言いきって自分では納得。


そう言われた彼は絶句。


さっきから間接照明のみの寝室の極上な感触のベッドの上で、これ以上ない程の美麗な男に押し倒されている現状で得た色気の無い答え。




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