夫婦ですが何か?
「千麻ちゃんを選んでごめん」
ああ、それか・・・。
今まさに自分が思考していた内容と同じ。
そう理解すれば力も抜けて、非難するわけでなく息を吐くと言葉を返す。
「今更ですね。そして、謝罪するのは狡いです。あなたはいつだって確信犯で、分かっていて利用したのでしょう?
私ならこんな非常識な要求にも応える事を」
はっきりと確かめればさっきよりも動揺の揺れを強めた緑をまっすぐ見つめる。
一瞬すぐに開きかけすぐに閉じた口はどんな言葉を弾きたかったのか。
否定?肯定?
どっちでもいい。
どっちにしろこの関係に大きく影響する事ではなく、彼がどんなに夫婦ごっこに徹しようとしてもそれは【ごっこ】で本物にならない。
そもそも結婚式の誓いも指輪の交換も、偽りと綻びだらけの張りぼての舞台。
何が滑稽かって・・・。
ヒロインそのものが代役にもならない偽物だったんだから。
「それにご心配なく。あんな嫌味も1年だけの事」
「・・・・・」
「彼女たちもすぐに飽きるでしょう。左手の薬指に指輪さえハマっていない女の事なんて」
そう言って確かめるように自分の手を見つめ誓いの証しの有無を伝える。
決して指輪が欲しいわけではない。
ただ、誓いは無効にも近いと言いたかっただけ。
そして確かめるように彼を振り返れば。
あっ、・・・・悲哀?
動揺を通り越した深い緑の色にさすがに息を止め、それでも僅かに口の端を上げている表情に更に哀愁を感じる。
「・・・・・狡いのは、千麻ちゃんだよ」
言い負かせてしまった。
そう感じた時には解放される体。
これまたタイミング良く扉が開き、どこかもどかしそうな笑みで私を見つめた姿がふわりと甘い香りを漂わせ横切っていく。
慌てて自分もフロアに降り立つと彼より数歩前に出て歩き始めた。
無言による静寂。
靴音がやけに大きく響いて聞こえ、そして嫌でもわかる長年の付き合いでの心情。
顔を見なくても空気で分かる。
これは・・・、
寂しい、や、傷ついた時の彼の空気。
そして失態。
秘書としてではなく、妻としての仕事の失態。
癒やし励ますべき時期の彼を更に追い詰めた様な事態に胸の奥がざわめいて、言い様のない罪悪感。
そう、今この時に、
深く深く傷を負って痛みに耐えているのは彼の方なのだ。
失った隣合うピースが恋しい。
ああ、だから、代役である私にも固執するのでしょうか?
変わりでいいから愛してほしいと。