夫婦ですが何か?
「狡いとおっしゃられますけれど、私これでも譲歩して理想の奥さんを築きあげていると思いますが?」
ベランダで夜風に当たりながら2人で冷えた酒を飲む。
それはもうほとんど習慣化し始めていて。
生温い風を受けながらごくりと喉を熱くすると自分の肩でさらりと揺れる髪を抓んでそれを示した。
その仕草をチラリと捉えた彼もまた、自分の手の中にあるそれを一気に煽ると「まぁね」と素っ気なく応える。
ああ、まだ僅かばかりにいじけておられる。
空いた御猪口をすかさず満たそうと半分以下に減った冷酒の瓶を彼に向ける。
もうそこはだいぶお互いの息も理解してきた感覚で静かに受ける彼に酒を注いだ。
あの日以来、家に戻るとロングヘアーに装いを変える私、寝るまでの間だけだけども。
どうやら彼の好感を上げてしまったらしいこの姿はこうして契約の条件に含まれてしまったのだ。
まぁ、痛いわけでもない。
特に自分に支障もないわけだから抵抗も無く彼の望む姿で私生活を過ごしている。
「千麻ちゃんって・・・・欲求不満になったりしないの?」
ぼんやりと高層マンションからの夜景を見つめ御猪口に残っていた酒を口に含んだタイミングだった。
ふざけた感じでもなく単純に疑問として問われた内容に視線を絡め、そしてすぐに思考すると眉根を寄せた。
「・・・・ある様な・・・ない様な?」
「何それ」
「まぁ、あったとしても仕事に集中してて忘れる程度な気が・・・」
「性欲弱いのかな?」
「さぁ?ああ、でも・・・元彼には私を満足させるのは一苦労だと・・・」
「ねぇ、一応言っていい?俺、千麻ちゃんの現・夫だから。嫉妬深いから・・・」
「先に話を振ったのはそっちでしょうに・・・」
ムッとした彼が再び不機嫌を露わにすると、負けじと眉根を寄せ座っていた椅子から立ち上がるとクリアなガラスの塀に寄った。
そして再びの無言。
夜風に遊ばれる髪がふわりと揺れて、キラキラと近くも遠くも光りを放つ夜景を見つめまだ働いている人間がいるのだと実感する。
そんな瞬間。
トンッと横に並んできた体がワザとぶつかる。
存在を示す様に接触を図ってきた彼をゆっくり振り返れば、そのグリーンばかりは意地を張って余所を向いている。
ああ、困った人だ。
ただ、仲直りがしたいだけだと言えばいいのに。