夫婦ですが何か?
さすがに少しばかりくすぐったい。
ゾクリとした感触に眉根を寄せ息を止めると、耳元にあった彼の唇が小さく笑ってかかった息にムッとした。
そして小さな胸を包む大きな彼の掌の熱。
「ね?・・・早く身も心も夫婦になっちゃおうよ?・・・ち・ま」
首筋で弾かれる言葉。
すぐにまだ服の上だった手も下に降りて太ももに触れる。
そして滑るように内股に移動する指先の感触を冷静に感じながらその一言を発した。
「・・・出直し」
「・・・・」
「この時点で私をその気にできない男に身を預けようとは思いません」
「・・・・・・・・鬼」
「不満がお在りなら風俗にでもどうぞ。お金を積めば確実に私より愛のある行為を望めるかと」
「千麻ちゃんっ、さすがに俺傷つくんだけど!!」
「・・・・・・・興味のない行為に毎夜誘われる私の精神的苦痛は考慮されないので?」
「・・っ・・・」
はい、今夜も私の勝ちである。
夫婦生活を開始してもう何日か経過した。
左の指にいくら夫婦の証を光らせようと全てが他の夫婦の様に許せるわけじゃない。
結婚したと言っても彼の欲求不満までは対象外である。
私が解消する義理も無い。
あっさりと言い負かすと巻きついていた腕を振りほどくようにその場を離れだす。
そうして不満げに表情を歪める彼をチラリと確認するとそれなりにフォロー。
冷蔵庫を開き冷酒の瓶を取り出すと体を預けるように冷蔵庫の扉を閉めた。
「ダーリン、」
不満げに視線を逸らしいじけモードに入っていた彼に声をかける、綺麗なグリーンがこちらを捉えればこれもまた私の勝ち。
「呑む?」
勿論【一緒に】そんな含みを込め瓶を示して誘いをかければ、決して彼はもう不機嫌でいられないのだ。
でも精一杯、まだ不機嫌なのだと示す様な表情。
本当は少し・・・いや、すでにもうその不機嫌は不在に近いであろうに。
ようやく動きを見せた彼が食器棚から高そうなガラス細工の御猪口を2つ取り出すと、私に近づきその手から瓶を抜き取った。
そしてそのまま横を抜けたその瞬間に私は口の端を上げるのだ。
決して彼が見ていないであろう一瞬だけ。
で、言うのよね?
「千麻ちゃんは狡い・・・」
ああ、単純ねダーリン。