夫婦ですが何か?



扉に額を寄せると直後に限界だった涙腺から涙がほろりと零れ落ちた。



「・・・・・・泣いて・・・喜んでた」



背後から静かに響いた雛華の声が・・・言葉が耳に痛く響いてくる。


知ってる・・・。




「千麻ちゃん・・・・・茜の子供出来て・・・・喜んでたよ」




知ってる・・・分かってる・・・。




「っ・・・、千麻ちゃんが・・・茜を愛してなかった筈ないじゃんかっ・・・」


「っ・・・」


「っーーーー馬鹿茜っ・・・」



「・・・っ・・・・・知ってる。・・・・知ってる・・・分かってる・・・・」



響かせた声はすぐに嗚咽になって、その身は一瞬で床に崩れて膝をつく。


次から次へと流れる涙が廊下に落ちて痕を残して。


痛いほど苦しいのに・・・・・・死ねないんだ。




『ダーリン・・・』



「っ・・・うっ・・・あぁぁ・・・」




失った後に気がつく。


彼女と過ごした瞬間は、時間は、


揉めていたつい数時間前の瞬間でさえも愛に満ちていた時間だったと。


愛されていた。


強く・・・・儚く・・・・。


儚く・・・・。


儚いと知っていた。


壊れやすいと知っていた。


それでも失いたくないから・・・・割れ物に触れるように大切にしていたのに。





「・・っ・・ごめん


・・・ごめっ・・・俺を許し・・て・・・」






許して、許して、許して・・・・。



どれほどそう叫び続けたら・・・、



また・・・・俺を見てくれる?



抱きしめてくれる?






「っ・・・・千麻・・・・・・」
















許す筈・・・・なかったね。


築き上げた物を全て断ち切ったのは・・・俺。








ねぇ、


今も・・・・・・俺を許せない?








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