夫婦ですが何か?
出産と違い・・・手早く処置された体は心の傷なんてお構いなしに退院させられる。
あっさり1泊で終わった入院生活。
それでも体が拒絶する彼の元へは帰れず、雛華さんと芹さんの家にその身を置いた。
極力、雛華さんは私の前に姿を現さない。
もしあらわすときはその目を黒いガラスで覆って、申し訳なさそうに眉尻下げればそれを笑って流してくれる。
優しい人だと思った。
心底・・・、申し訳なくなった。
自分の体が・・・・・・憎いと思うほどに。
そんな私が・・・・もう仕事だと割り切ろうとしたところで無駄なのだ。
無理・・・。
期待をかけるのも、
期待されるのも、
信頼・・・・されるのも。
緊張して足が震える。
その震える足を見つめ下に下ろしたままの視線。
息が苦しい。
なんて・・・・失礼な態度だろう。
見慣れたオフィスの立派なデスクの前に立ち、目の前の人物の気配に怯む。
カサカサと自分の差し出した書類を確認する紙のこすれる音が耳に響いて。
そして小さく溜め息。
困ったように、残念そうに、
でもその表情は・・・捉えられない。
視線を上げるのが怖い。
この人もまた・・・綺麗で鋭いグリーンアイの持ち主だから。
「・・・・・やっぱり・・・継続は無理?」
響いた声に一瞬ビクリとしてでもすぐに小さく頷いてみせて。
「はい・・・・、すみません・・・・」
息苦しい間隔に悶えながら自分の変わらぬ返答を何とか音にした。
そして続く沈黙の間に、目の前の人はどんな表情をしているのか。
残念そうに?
それとも呆れてる?
そんな疑問が走っても上を向くという馬鹿みたいに簡単な事も出来ない私。
そして再び耳に入った彼の溜め息に胸が苦しくなった。
「・・・・・受理するよ。・・・君ほどの逸材・・・手放すのは酷く痛手だけど。・・・・・・・・君が壊れるよりずっといい」
「・・・・・」
「・・・・・・ごめんね、俺も茜も・・・、君が有能だって期待かけて無茶難題ぶつけて。・・・・・困らせて、戸惑わせて・・・・・でも・・・・・それに応えてくれた君はやっぱり有能だったよ」
「・・っ・・・・・すみません・・・」
喉元が熱い。
目頭も。
変わらず息苦しいのにそれはさっきとは別の意味で。
私は成し遂げられなかったのに、耐え切れず壊れてこうして離脱しようとしているのに。
与えられた賞賛の言葉に胸が騒いで涙が零れた。
この人に・・・・尽くしたかった。
この家系が紡ぐ力に尽くしたかった。
それが出来なくなった自分は無能だというのに。