夫婦ですが何か?
ーーーーONE DAYーーーー
目を瞑っても歩けそうな勝手知ったる社内を歩く。
響く靴音がいつもより間隔狭く感情を露わにしめして。
ちらりと確認した時刻は午前の10時過ぎ。
このフロアもしかり、社内全体利益の為に目下勤務に励んでいる現状。
なのに俺と言えば川の遡りの如くオフィスを後にしてエレベーターホールにその足を向けている。
勿論、付き添う様な秘書もいない。
それでも残像の様に時々その姿を思い出して口の端が上がる事もある。
小さいのにそうは感じさせない、ショートヘアで眼鏡をかけた真面目そうな秘書の。
今となってはあの姿が懐かしいと小さく笑い、現状の彼女を思い出せば更に逆上せた様に眉尻まで下がる。
情けない。
これでも1年前までは出来る天下の大企業の副社長だったのに。
・・・なんて、嘆いたりしないけどね。
むしろ業績上げて登りつめる達成感よりも、優って必死になる重要事項。
それなりに楽しんで、のんびり時々急んで挑んできたけれど、これからは後者のスタイルを貫こうと決意。
本当に千麻ちゃんにはいつだって俺の常識や考えは通用しなくて、翻弄するつもりがされている。
きっと、ずっと・・・。
歩き抜けて広いエレベーターホール。
迷わずボタンを押そうと手を伸ばしかけると耳に入りこんだエレベーターの到着音。
フワリと近くの厚い扉が開いて、中から人の気配を感じた瞬間に色々と身構えて。
直後、
「あっ、・・・万年振られ男の茜ちゃんだぁ」
「ああ、重役出勤ならぬ退社ですか?いいご身分ですね。これじゃあ【水城】が愚痴って嘆いても仕方ないわけだ」
「どうせ、その【水城】さんとこ行くんでしょ?勤務時間なのに」
「嘆かわしいですね。過去に輝かしい業績上げた天下の大道寺の副社長のなれの果てが・・・」
「ダブルで嫌味トークかましてくんじゃねぇよ。ってか、秘書の分際で仮にも上司に物申してくんな」
嫌味2人分。
身構えた身体にも見事チクリチクリと痛い言葉を躊躇いも遠慮もなしに浴びせた2人組は、見た感じ異色と感じるのに思いの他息を合わせる。
こうして何度見ようが未だピンとこないスーツ姿の一人は同い年でありながら俺の叔父である、そして現副社長である雛華。
それに付き添っていつだって嫌味な微笑み携え俺の苦手な香りを振りまく相容れない男で雛華の秘書・・・・・、千麻ちゃんの元彼な恭司。