夫婦ですが何か?




千麻ちゃんとトレードの様な形で俺と雛華の補佐をし、そしてしばらくの間雛華の世話役になっていた男は結局大塚より好条件を提示され引き抜かれる形となって。


当然の事ながら雛華の秘書業務継続でこの会社に貢献している。


雛華が社交的でない分この男が持ち前の形ばかりの愛想でカバーし、天然様な雛華にはこいつの嫌味が通用しないことが上手くいっているポイントな気がする。


そして俺をこうして追い詰めるように嫌味を飛ばす事には、この2人は絶妙な息を見せるこの1年。


もはや遭遇時の挨拶の如く今もその嫌味を受けると、相手にしてられるかと2人が降りたエレベーターに乗り込もうと一歩を踏み出した。


のに、


静かに目前で閉まる扉。


思わず振り返れば涼しい顔で▽ボタンを押す嫌味な笑みの男。




「って、何してくれてるんだよ!?」


「・・・・・まぁ、そんなに急がなくてもいいでしょう?水城が逃げるでもあるまいし」


「いや、もう1年も逃げられてる茜ちゃんだから。だから未だに【水城】さんだもんねぇ?」


「ああ、確かに、」


「だいたい、あの黒い手袋外したのだって記憶に新しい数か月前じゃない?会う事は許されてもなっかなか触る事は許されずな期間の長い事、」


「俺のマンションから出て行っても未だ彼女は1人暮らしみたいだし」


「もう何回プロポーズ流されたって言ってたっけ?」


「煩さいなぁ、いちいち!!悪かったなっ、それこそ365日に近いくらい振られてるよ!!」



嫌味な2人に耐え切れず勢い任せに悲しい現実を叫んで見せれば、そんな事はとっくに理解してる2人が小さく噴き出して人を小馬鹿にする。


くっそ・・・、でも全部本当だから言い返せない。


雛華が語った通りに俺が大っぴらにあの犯罪者スタイルをやめて彼女と会えるようになるには半年くらいかかって。


勿論、会って一日中そんな姿をしていたわけでなく、順繰り順繰りリハビリ的に素手で肌や髪に触れたりはしていたけれど。


それでもなかなか元のままに心のまま触れ合えるようになるには時間がかかった。・・・・予想以上に。


絶対に千麻ちゃんの意地悪も含みだったと思うけれど。


でも、いいんだい。


フンと顔を背け現状は幸せだと自分の中で反芻する。


そして思い出す彼女の姿に思わず口元が緩みそうになるほど。


いや、多分緩んでしまっていて、それを捉えた雛華の非情な一言。

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