夫婦ですが何か?
ーーーーONE NIGHTーーーー
不意に時計をチラリと確認する。
つい数分前も確認したと針の微々たる移動で理解して自分の呆れた行動に溜め息をついた。
そんな今の態勢と言えば、しっかり盛り付けられラップをかけられ並べられた夕飯の数々の前で突っ伏して、それを意味なく小突いてみたりしている。
こんな時間を最近毎夜過ごしている気がする。
お酒でも飲めたら多少の気を紛らわせられたかもしれないけれど、現在1か月半の愛娘育児中。
もれなく授乳という育児には不可欠なお仕事がある為飲酒は出来ず、特別見たい番組も映画もなく無言でテーブルに身を預けてしまうのだ。
そうして無意識にまた時計を見た瞬間に舌打ち。
勿論自分自身に。
何をしているんだか。
はぁっ、と大きくけじめの様に溜め息をつくと、鉛のように重い体をのそりと起こしてようやくその椅子から立ち上がった。
時間にして22時半過ぎ。
『遅い』
なんて言いたくはない。
彼は仕事で、ここ数日は稀にみる忙しさでまともに顔を見ても重要事項のみ確認してのすれ違いに近い生活。
私もいつもは諦めてこの時間より早く就寝することもしばしば。
そうして朝起きて一番に目の当たりにする事態にいつも複雑な溜め息をつくのも習慣化しそうだ。
そして・・・これらもまたその道を辿るのだろうか?と視線をテーブルの上の食事に走らせ一瞬の不動。
育児片手間でも彼の体調や食べる時間帯を考慮して作り上げた物。
でも・・・、
また半分以上は明日の朝にはごみ袋行きなんだろうか?
「・・・・仕事、・・・・・仕事よ、千麻」
何とも言えない葛藤に眉根が寄りそうになった瞬間に、それを堪えすように頭を抑えて念仏のように唱える。
納得して受け入れるように。
そして今唯一の癒しである眠り姫の尊顔捉えようと、寝室のベビーベッドにその身を置く姿を求めて歩き出す。
静かに起こさないように扉を開け、常夜灯のみの部屋に静かに入りこむ。
そしてゆっくり近づくと手すりに指を絡めてその姿を覗き込んだ。
こんなに複雑な葛藤で乱れていても、その顔を見れば口の端が上がってしまうから不思議だ。
まだ大きすぎるベッドの真ん中で両手を広げて眠っている翠姫の無垢な姿に癒される。
その身に絡んでいた鉛の塊がうろこのようにぽろぽろと剥がれ落ちていくみたいに軽くなる。