夫婦ですが何か?
それは予想外の来訪。
思ってもしない時間帯で、こんな時間にまず急には来る筈のない常識的な人の驚きの来訪。
部屋に響いたチャイムに大方の家事を終わらせ愛娘をあやしながらのリラックスタイム。
かといって授乳中であるが為アルコールの類は一切口にしていない現状、テーブルの上には炭酸水と今まで彼が飲んでいた日本酒のグラスが一つ。
その彼と言えば少し前に入浴しに行って、私がインターフォンの前に立った時にひょっこり髪を湿らせた姿で現れたのだ。
程よい石鹸の匂いを漂わせ私の隣に立つと翠姫を受け取りながら疑問を響かせる。
「ん?誰~?」
その質問を受けたタイミングで映しだしたモニターには見覚え鮮明な小柄な姿が存在を示す。
それでも首を傾げてしまったのはその時間帯と理由が不明の来訪だ。
思わず後ろを振り返って時計を確認しながらの応答。
時間帯として・・・22時。
「芹さん・・・、どうされました?」
『こんばんはぁ・・・、ちょっといいですか?』
少し気にかかるのはらしくない口調。
どこか微睡んだような響きに眉根を寄せながら隣でも疑問の表情を浮かべる彼を見つめる。
それでもまさか追い返す事ができる筈もなく、エントランスを開錠すると彼女の来訪を待って部屋を片付ける。
「それにしても、・・・芹さんが連絡なしに来るなんて珍しくないですか?」
「だよね~?でも、俺の携帯にも連絡来てなかったし」
「・・・・雛華さんと喧嘩でしょうか?」
「ひーたんなら今仕事でロスに出張中だよ。あっ、その隙をついて俺に夜這いを・・・」
「・・・お邪魔なら退散いたしましょうか?」
「冗談じゃん。妬かない妬かない」
そんな事を言いながら宥めるように背後から絡み付いてくる彼にフンと鼻を鳴らして引きはがす。
冗談と言いつつどこかテンションの上がった彼は純粋にこの来訪に浮れて見える。
そりゃあそうか。
私とは違って、彼女は彼の方から普通に恋した相手なのだから。
今でこそ私にべたべたと『ぞっこん』宣言かまして絡んでは来るけれど、彼女と並べられたらその扱いや態度はあっさりと彼女の方へ傾くような気がする。
懸念ではないけれど限りなく予測のつくその事態に溜め息をついていれば、つつがなく我が家に足を進めていたらしい彼女の来訪。
響いたチャイムの音に真っ先に動き出したのは言わずもがな・・・。
我が夫様だ。