夫婦ですが何か?
焼き魚、卵焼き、お浸し、ご飯、味噌汁。
うん、充分だろうと指で確認していき、最後に味噌汁の味見をしてその味に首を傾げたタイミングだった。
「・・っ・・・・・」
腹部に巻きついてきた腕と石鹸の香り。
ポタリポタリと頬に水滴が落ちそして味噌汁の味見をしていた小皿を持った手首を掴まれゆっくり引かれる。
「・・・ん、俺、このくらいの味が好き」
「・・・・・・おはようございます」
「おはようハニー」
「・・・・・・・体はしっかり拭いてきてねダーリン」
「うわぁ・・・棒読みの上になんか怨念込めてない?」
そう言って私の頬を指先でつつく姿に物言いたげに見つめ返してしまう。
その姿と言えばどうやらシャワーを浴びてきたらしく、濡れた髪を無造作に後ろにかき上げ、拭きとられなかった水滴を歩いてきた道筋に点々と残してきたらしい。
非難するように自分に絡みついている体に露骨に視線を走らせると、多分裸体の腰にタオル一枚という無防備すぎる姿。
まぁ、自宅だし。
よくあるよくある。
そう納得すると特に突っ込むでもなく視線を味噌汁に戻していった。
「うわぁ、もっとさぁ、『きゃっ、恥ずかしい』とか、『服着て下さいよ』とかないのぉ?」
「・・・・・きゃっ、ウザい。裸でいたいならAV男優にでもどうぞ」
「千麻ちゃん・・・・、なんでそんなに俺に辛辣?」
「むしろ、何でそんなに甘い新婚さんごっこがしたいのか謎です」
呆れながら体を引き離しエプロンを畳むと、盛りつけた朝食をテーブルに運び始める。
そんな私になにか言いたげに口を開き、運び切れなかったお皿を手にした彼にすかさず注意を促す。
「とりあえず。何よりも先に人としてまともな格好に着替えてきてくださいね。茜さん」
一瞬不満げに表情を崩したくせに、あえて付け足した名前の響きに満足し口の端を上げた彼が上機嫌にクローゼットに向かう。
なんて単純でわかりやすい。
どうやらこの夫婦ごっこに本気で興じたいらしい彼に効果は抜群だろうと名前で呼べば分かりやすくこの反応なのだ。
少しばかり愛嬌のある彼の反応。
存在がいないのをいい事に小さく口の端を上げるとテーブルに綺麗にお皿を並べ完璧な新婚生活の朝を彩った。