クリスマスの祈り

恩讐の果てに――クリスマスの祈り

「主人と知り合って、彼の説教を聞くうちに、変わったのです。恨むな、赦せと。恨むことは、誰にでもできる、地獄への第一歩。赦すことは、困難だけれども天国につながる鍵。そう、言ったわよね?」


小城牧師がうなずき、純子さんは語り続けた。


「あなたは、十分に償いをなさいました。遺族が言うのです。生きてください、と。あなたが極刑にならなくて本当によかった。そうしたら、こうやってお話をしたり、スープをお配りしてお近づきになれないところでした。食卓には、いつも主がいらっしゃるというのが、主人の持論なんですよ。だから、最後の晩餐があったのだと。主の陪食の席に連なる、私たちは、今日はあなたがたのお食事にも奉仕させていただきました。みなさんと、この社会が少しずつ変わるように、私たちも頑張りますから、野中さんも決してやけにならずに、いつでも教会においでください。教会は、信者だけのものではありません。迷えるもの全ての集う場所です。あなたは、十分に苦しまれました。そうでしょう?」



こうした優しい言葉を、他ならぬ遺族から聞こうとは思っていなかったので、俺は呆然としていた。小城牧師は、やはりにこにこと笑っていた。


「このような……こんな、俺を、あなたは……」


「そんなあなただからこそです。主もおっしゃいました。丈夫な者に医者はいらない、私は罪人を招きに来たのだ、と」



俺の涙は、ぽろぽろとこぼれはじめた。不意の優しさ、親切に飢えているときの温かさが、どれほど人間の支えになるかわからない。俺は、子供のようにしゃくり上げた。


赦された、赦された。俺は、生きていて、いいのだ。



俺を囲む牧師夫婦は、ただやわらかい笑みを浮かべながら、そばで手を握っていてくれた。


俺は、天を見上げた。


20数年前の、孤独な犯罪者としてのクリスマス。


今の、贖罪者として、優しい人たちに囲まれたクリスマス。


俺は、命を奪ったその手で、自分の糧を稼いで生きてゆく。その強さをください。


神様、どうか……。


俺は、いつの間にか祈っていた。祈るのが、自然だった。そして、牧師夫婦も祈った。


俺たちは、三人で、いつまでもひざまずいていた。



(了)


2014 Frohe Weihnachten!
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