手品師
「種なんか、ないんだがね」
おじいさんが応えると、ギャラリーがどっと湧く。
それはそうだろう。
手品師が種明かしを簡単にするわけがない。
にぃチャンの軽口を、おじいさんらしいトークでかわしたんだとみんなはとったようだ。

…僕以外は。

僕には、おじいさんが事実を話してるようにしか思えない。

ホントにタネなんかないんじゃない?

一度そんな考えにとりつかれると、どうしてもそう見えてしまう。
おじいさんは『本物』なんだ……って。

バカバカしい。
今時そんなの信じるなんて。
子供みたいだ、僕。

僕がそんな事を考えている間に、おじいさんは次の手品を披露し始めた。
足元にあったモノを一つ拾うと、両手の上に乗せる。見る間にそれは小さくなって行った。米粒くらいの大きさになると、今度は大きくなりだす。最初の大きさより大きく、両手いっぱいにかかえきれないくらいになったかと思ったら…

消えた。

今度は歓声はあがらない。
誰もが、僕と同じように感じてるハズだ。

スゴイ、ではなくて

コワイ

と。

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