囚われの姫
囚われの姫

彼と出会ったのは、バーのカウンターだった。

私は自分でも、男を惹き付ける容姿をしている自覚はある。
大抵人肌恋しくなると、1人でふらりとバーへ向かうのだ。

男側も、女がそういうつもりでここにいると分かって一晩限りの関係を求める。
後腐れのない遊びは一時だけ寂しさを埋めてくれる。



その日も、毎回の如く人肌を求めて適当なバーに入った。

「今日はお一人ですか?」

話しかけられた方を見ると、驚くほど品のある男性が隣に座ろうとしていた。

「ええ。そうなんです。」

男はそのまま自然に会話を続けてくる。
私は小さく落胆した。

こういう男は本当にただ話相手を探しているだけでベッドを共に過ごすなんて頭に浮かびもしていないはずだ。
こんな男に構って悠長にお喋りを楽しむなんてまっぴらゴメンだ。

私は私の体を満たしてくれる相手を探しているのだから、察して欲しいところである。

だが、この男の話は案外興味の持てる内容だった。
どうやら趣味が野球観戦のようで、私も野球観戦が好きなのでついつい話に花を咲かせてしまったのだ。
そのままついついお酒も進む。

たまにはこういう健全な夜も悪くはないと思ってしまうくらいには十分楽しんでいる自分がいたのは覚えている。




そして、気が付くと私は何故かベッドに横になっていた。

いや、この男は下心がなさそうだったが何だかんだちゃっかり誘ってきたので勿論私は誘いに乗った。
そのままホテルの部屋でもお酒を飲みながら話していたのだが、そのあたりから記憶が曖昧だ。

そして起き上がろうとしたところで、体の異変に気がつく。
両手がひとつに縛られてベッドに括り付けられていたからだ。
その瞬間、恐怖に背中が凍り付く。

キョロキョロと部屋を見渡すと、男がベッドの端に座っていた。
それを確認した途端に何故か私はホッとしてしまったのだ。
何故かは分からないが、彼から溢れる品の良さは変わらなかったからだ。
ただそれだけのことが、私を安心させた。

「ああ、気がついたみたいだね。」

男は嬉しそうに目を細める。
そのまま着ていたスーツの上着を脱いでネクタイを緩めながら私に覆い被さってきた。

「君はとても良いものを持っている。俺には分かるんだ。」

言ってる意味がさっぱり分からない。

「あの、腕を解いてください。」

そう言えば彼はこの紐を解いてくれると思った。

「いや、これを解いてしまったら折角見つけた原石を磨くことが出来ないからね。これはこのままだよ。」

「どういう事ですか?お願いだから、解いて…」

かなりお酒を飲んだせいで頭がくらくらしているし、この男から漂う色気にもくらくらする。
先程までは無かった欲情の視線が今は私に向けられていた。

「大丈夫。きっと君は気に入るはずだ。」

そのまま男は私の着ていたワンピースの背中のファスナーを下ろしてブラのホックも外す。
なのに、脱がさないまま体中を男の指と唇を滑り始めた。

体中に与えられる刺激に甘い痺れが走るが、腕を縛られているため自由に動けないことがもどかしい。

出来ることならこのままワンピースを脱ぎ捨て彼の服も全て脱がせてしまいたい。

しばらく服の上から体をまさぐられていると、ワンピースの裾を腰までたくしあげられて彼にお尻を突き出すような格好をさせられる。
後ろからカチャカチャと金属音がして彼がベルトを外しているのだと分かった。

「え…あの………っ」

お尻に彼の硬くそそり立つ熱を擦りつけられて柄にも無く狼狽える。
いつもの私なら有り得ない反応だ。

私は今腕を縛られて、服もほとんど着たままの状態なのだ。
彼もワイシャツを着たまま、ネクタイとスラックスを緩めているだけだ。

「もう、かなり濡れてる。やはり、素質がある。」

後ろから艶のある低音が聞こえたと思ったら、一気に貫かれた。

「……いやぁっ!……やめて…苦し、」

いきなりの行為に鳥肌が立って今まで感じたことのない感覚が全身を襲う。

「あぁ、最高だ。」

男は私の反応にはお構いなしに遠慮の欠片もなく腰をぶつけてくる。
乾いた肌のぶつかる音と粘膜同士が擦れる水音が同時に聞こえる。

あまりの苦しさに息が上手く出来ない。
今まで一夜限りの関係であってもどの男も人並みの愛撫をして、ある程度女のナカが柔らかくほぐれてから挿入してきた。

こんなに性急に挿入されたことなど初めてでどうしていいのか分からないし、縛られているせいで逃げることもできない。

だが、自分が本気で逃げる気などないことは分かっていた。
私の中の何かが無理やりこじ開けられそうになっていることにも……





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