囚われの姫
それからこの男との関係は続いている。
彼は毎回と言っていいほど私の体を縛る。
今日は両足首と両膝を縛られていた。
「…大和さん……っ…んん」
腕は自由だが、既に力が入らずにくたりとベッドのシーツの上に横たわっている。
足を縛られても挿入出来るなんて彼に出会わなかったら知らなかった。
「真里花、気持ちいい?」
激しく揺さぶられながら、縦か横かも分からずに首を振る。
男が嬉しそうに口元を緩めていることに女は気付かない。
今日は、私は裸にされて素肌を晒しているにも関わらず男はワイシャツのボタンを数個外しただけだ。
「大和さん、の、濡れちゃう……」
真里花が大和のスラックスを唯一自由な手で緩く掴む。
「…ん?もう、真里花ので濡れてる。クリーニングに出せばいいだけだしスーツは他にも沢山あるし、大丈夫だ。そんなことより…」
「…え?……あっ!や、大和さ…ん」
大和は真里花の両手を自分の首にぶら下がっていたネクタイで縛り始めた。
真里花は芋虫のような動きしか出来ない。
「真里花…真里花、最高だ。やはり、俺には君だけだ………。」
その言葉は、真里花の胸にナイフのように刺さり、血を流す。
残酷な言葉。
彼が自分に愛情など持ち合わせていないことは承知済みだ。
だけど、私は………
真里花が気を失うほど果てた後、体の紐を解いてもらう。
やっと自由になった体はどうしていいのか分からないほど縛られることに慣れてしまっていた。
「……大和さん。」
私はいつも自由になると彼の首に腕を回して抱きつきながらキスをする。
唇が触れるだけのキスを。
あれほど濃厚に体を繋げていた事が嘘のように彼は素っ気ない。
縛られていない私にはまるで興味のない彼は自由な私のキスなど迷惑としか思っていないに違いない。
だが、縛られていても彼は決して私にキスをしてくれないのだから自由なときにキスしておくしかない。
何度も啄むように唇を合わせて、彼の唇が湿って柔らかくなってきたら、舌を絡ませたくて彼の唇の間に舌を差し込もうと頑張ってみる。
すると、やっと彼からのお許しを得られたようで舌を深くからませ吸いつく。
息継ぎする暇もないほど荒々しいキスを交わしたところで満足した私は、彼から唇も腕も離した。
「…ひゃっ」
いきなりベッドに押し倒されて少し驚いてしまう。
彼を見上げると、彼は困ったような表情をしている。私はいつも余裕がある彼がたまにみせるこの顔がたまらなく好きだ。
「本当に真里花には困るよ。お手挙げた。」
彼は着ていたワイシャツのボタンを外しながら私の首筋にキスを落としていく。
そして、やっとお互いの素肌をあわせることができた。
私は彼の肌に手を滑らせる。
彼の肌には所々に傷がある。
その傷に自由な指を優しく滑らせてそっとキスをしていく。
ひとつづつ丁寧に。
私がそうしている間は彼は大人しく私の頭を撫でてくれる。
彼が幼い頃に受けた親からの暴力は彼が大人になってからも消えることはないのだ。