ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
何とかスパイ疑惑を晴らせそうだと安心した時、
白衣の彼が、なぜか“夏美”自慢をし始めた。
「盗みは許せないが、夏美に目をつけたことだけは褒めてやろう。
夏美は俺が今まで作った試作品526種の中で、一番イイ女だ。
暑い夏にピッタリの、クリアな喉越し。キレッキレの爽やかさだ。
いいか?このキレを作るには、……――――」
夏美の特徴や、ホップや麦芽の配合率、
製造方法までペラペラと喋り出した彼。
その表情は恍惚として、私に説明しているというより、
ただ今、自己陶酔中といった感じ。
床に座ったまま口を半開きにして、彼の話を聞いていた。
新ビール“夏美”について、私が大まかに理解してしまってから、
三国主任がやっと、待ったをかけた。
「久遠(クオン)!
部外者に夏美の全てを暴露して、
どうするんだよ!」
はい、まったくその通りでございます。
私はスパイではないが、本当にスパイなら、
「情報ありがとう」と、お礼を言わねばならないところだ。