ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
茫然自失の黒川は、床の一点を見つめて呟いている。
「メール履歴……
RED'sビールの営業部と研究室のPC、取引先もやられたってことか……?」
独り言のような呟きだが、久遠さんは答えてあげていた。
「だから“悪いな"と謝っただろう。
今お前の頭に浮かんでいる関係先は全滅だ。
解析し難く作ったつもりだが、万が一ウイルスの出所が暴かれたら、お前が犯人扱いされるな。
それについても謝っておく。
悪かった」
ウイルスを作ったのは久遠さんだけど、黒川はそれを口にできない。
なぜなら、私を拉致して裸にした上に、久遠さんの研究成果を盗むという犯罪行為を、告白することになってしまうから。
この先、ウイルスの発信源を突き止められる恐怖に怯えて暮らさないといけないなんて……
自業自得の結果だとしても、黒川を哀れに思ってしまった。
床に崩れ落ちている黒川に背を向け、久遠さんが私の方へ歩いてきた。
私を見つめるその瞳は、今まで見たことがないほどに、優しかった。
ベッドに座る私の前で足を止め、
久遠さんは溜め息混じりにこう言った。
「生きた心地がしなかった……。
頼むから、もう俺から離れるな……」
力強い腕が、私の体に回される。
ぎゅっと抱きしめられて感じるのは、
私を見つけ出すまでの彼の焦りや、今心底、安堵している気持ち。
腕を通してそれが伝わってきて、
私は泣きそうになった。
久遠さん、心配かけてごめんなさい……。
見つけてくれて、本当にありがとう……。
私も腕を回して、彼の背中を抱きしめ返す。
気を遣ってか、にょにょ村部長と堂浦さんは、抱き合う私達から視線を逸らしてくれていた。