水平線の彼方に(下)
昼ご飯を作る伯母さんの包丁の音が聞こえてきた。そのリズムの軽快さに、ついウトウト微睡む。
そこに電話のベルが鳴り響き、ビクッ!となって目を覚ました。

「島崎(しまざき)です…」

暗い声で電話に出る。伯母さん曰く、これは詐欺対策なんだそうだ。

「あらっ、まぁ、真ちゃん!」

高い声に変わった。聞き慣れた名前に、むくっと身体を起こした。

「うん…うん…まぁっ…!そう…」

相槌だけだと相手がなんと言ってるか分からない。
電話で話す時のテル伯母さんは、極めてポーカーフェイスだから。

「そう…それでいつ頃来るの?…来月の一日から十日位まで?……うん、こっちはいいよ。待ってるから。はいはい。じゃあまたね」

カチン…。
受話器を置いて鼻歌。機嫌のいい証拠だ。

「…お兄ちゃん来るの?」

カレンダーをめくって花丸を付けてる伯母さんに向かって声をかけた。

「そう。よく分かったね」

マジックのキャップを閉めキッチンに戻る。
それまでと同じ包丁の音色に加え、下手くそな歌が聞こえてくる。

「いつ来るの⁈ 来月入ってから⁈ 」

電話の内容を確かめるように身を乗り出す。
天ぷらの衣を用意しながらウキウキしてる伯母さんは、くるりと振り向いて答えた。

「そう。一日から十日位までいるって!」

張り切ってる感じ。その顔がとても輝いてた…。
< 4 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop