倦怠期です!
「DHB1-100って型のエアコンなんだけど・・・」
「それはカンナギさんの製品ですか?」

カンナギのエアコンの型でDHBから始まるものはない。
そしてDで始まってるということは、たぶん・・・。

「ダイヤのエアコン」
「あ、やっぱり」
「でね、このエアコンと同じ性能のカンナギのエアコンを、僕は知りたいわけ」
「そうですか。1がついてるから、1方向の天井カセットタイプ、100だから5馬力かなぁ。確認のために、メーカーさんに問い合わせます」

と私が言ったとき、隣の因幡さんが電話を終えたので、電話の相手である横浜製作所の今井さんに、「すみませんが、このまま少し待ってもらってもいいですか?」と聞いた。

今井さんが「はーい」と返事をしたのを確認した私は、電話の保留ボタンを押すと、受話器をそっと置いて「因幡さん」と言った。

「あ?それ俺宛?」
「はい。横浜製作所の今井さんからで・・・」

私が因幡さんにメモ紙を見せながら、ざっと説明をしていると、因幡さんの内線電話が鳴った。
でも因幡さんは、それを無視して私の説明を聞き続けている。
すると「すみませーん!」という矢野さんの声が聞こえた。

矢野さんと永田さんは、二人とも24歳。
どちらかと言うと、永田さんは控えめな大和撫子タイプで、矢野さんは明るく、積極的なタイプ。
二人のタイプは違うけど、二人ともタハラには結婚相手を物色しに来たという節がある。
というのは、倉本さんと私の一致した意見。

だって二人とも、若手とオジサマ営業に対する接し方が全然違うから、返って分かりやすいと、倉本さんが笑って言っていた。

二人は戸田さんや小沢さん、そして公共部の若手営業も考慮に入れてたようだけど、やはり因幡さんに狙いを定めたようだ。
これは倉本さんと私にプラスして、公共部の営業事務をしている女性社員お三方とも意見が一致した。

矢野さんから「あのー、いなばさーん!」と大声で言われた因幡さんは、受話器を取ると、苛立たし気な口調で「何」と言った。

「・・・あぁ。いいよ、俺出る・・・もしもし。因幡です・・・いる。その前に、中原さんに聞いていい?」

どうやらその電話は、カンナギ冷熱の中原さんから私宛にかかってきたようだ。
さっき問い合わせていた在庫の回答かな。
そして因幡さんは、これ幸いといった感じで、今井さんから受けたばかりの問い合わせを、中原さんにしている。
だから私は伝票記入の続きを始めた。

「・・・ありがとう。じゃあすずに代わります」という因幡さんの声が聞こえたと思ったら、受話器が私のこめかみにゴンと当たった。

「ゔ」
「冷熱の中原さん」
「はぃ・・・」

私は受話器を当てられたこめかみをなでながら、因幡さんの受話器を受け取ると、自分の受話器を因幡さんに渡そうとして・・・受話器を取ろうとした因幡さんの手と少しだけぶつかった。
ついビクッとした手を因幡さんに気づかれないように、意味もなくドキッとした私の胸の内を、誰にも気づかれないように、私は平静を装う。

私と因幡さんの電話線がクロスに交差されてるように、「今井さん?因幡です。待たせてすみません」と言う因幡さんの声と、「もしもしー・・・はい、こんにちはー」と言う私の声も交差する。
慌ただしくも活気ある、いつもの仕事風景・・・よし、これでいい。

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