倦怠期です!
近藤さんを傷つけないように、なおかつ事を穏便に済ませたいという有澤さんの気持ちは分かる。
私だってもし、顧客やメーカーの誰かとつき合うことになったら、逆に、告白されて断ったら・・・。
どっちにしても、その後の関係は、今までと変わることは間違いない。

「とにかく、矢野さんからもチョコ渡されたが、俺、他に好きな子いるからって断った・・・」
「え?」
「何」
「や、矢野さんって・・・管理の?」
「ああ」
「えーっ!?あの人、因幡さん狙いじゃなかったのぉ?!」
「俺もそう思ってたんだが、なんかなー。因幡さんは彼女とラブラブだから望みなしって分かってー、そうなったら有澤さんのことが将来有望だと思うーとか、有澤さんって因幡さんよりカッコいいと思うーって言ってたな」

矢野さんの声マネなのか、にしては全然似てないけど、ぶりっ子口調で言う有澤さんがおかしくて、ハハッと渇いた笑い声を上げる私に、「そこ笑うとこちゃう!同意せいっ!」とツッコんだ。

「ごめーん!それより有澤さん、好きな人、いるの?」
「おるで。悪いか」
「ううんっ!そうじゃなくって!なんで早く言ってくれないの」
「・・・あ?」
「だだ、だって、私、有澤さんにクッキーあげちゃって・・・彼女さん、誤解してなかった?それより私を送ってる場合じゃな・・・」と私が言ってる途中で、有澤さんはブハブハと大笑いし始めた。

「な・・なんで笑うのよ。私は真剣なのに」
「いやぁ・・・わりい。でもおまえが気にせんでええから。大体まだつきおうてもないし」
「あ・・・そう。じゃあ告白、しないの?」
「・・・そのうちな。鈍感」
「はあ?なんで私が鈍感なのよ!」

またムキになって言い返す私って、つくづく可愛げがない・・・。
有澤さんの好きな人は、きっと私よりも大人で、何十倍も可愛げのある、カワイイ人に違いない。
だって有澤さんって、そういう人が好みのような気がするし、有澤さんにはそういう人がお似合いだと思うし。
・・・これ以上、自分を惨めにさせるのはやめとこ。
ってまたなんで・・・もう、分かんないや。

フゥと深いため息を一つついた私に、有澤さんはまた、「そのうちな」と呟いた。
その声は、なぜか穏やかな響きに聞こえたのは、有澤さんがニカッと笑っていた・・・からかな。



お父さんのことがあってから、有澤さんは仕事帰りに私をうちまで送ってくれていたけど、年明けから、それは自然となくなっていた。
でも月に2回くらいの割合で、安くておいしく、気軽に入れるお店へ晩ごはんを食べに行くのは相変わらず。

お金がない私と、寮とはいえ、ご両親からの仕送りなんてもちろんなく、一人暮らしをしている有澤さんも、そんなに贅沢はできない身だから、それ以来、2ヶ月に1度くらいの割合で、有澤さんちで晩ごはんを食べるようになった。
ゴールデンウィーク明けあたりだったか、ある日、有澤さんから、「うちで晩メシ食べよ」と言われたのがきっかけだ。
外食するより、おうちでごはんを作って食べたほうが断然安上がりだし、食べたい量を、好みの味つけで食べることができる。
一方で、自分で料理して、後片づけまでしなきゃいけないって手間もあるんだけど。

有澤さんと時々外食するのは、同期として仲良くしてるから。
そして有澤さんちで晩ごはんを食べるのは、一人暮らしをしている有澤さんから、料理とか、毎月食費にどれくらいお金を使うか、といった、お金のかけどころや管理の仕方を教えてもらうため。
それに有澤さんは、「好きな人」に告白してないみたい。
だって、誰かとつき合ってるって噂もないし、そういう形跡もない。
「そのうち」告白するって言ってたけど・・・いつするんだろう。

その答えは、私の誕生日に明らかになった。


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