倦怠期です!
11月24日の祭日明け。
締も終わったので、それほど忙しくもなかった私は、定時で仕事を終えて、会社を出た。
会社から最寄り駅へ向けて歩いていると・・・数メートル先に、お父さんが立っていた。

「香世子」
「・・・」

どうしよう。
思わず私の足が止まる。

このまま会社に行こうか。今いる場所は、駅より会社に近いし。
そして課長か誰かに助けを・・・ううん。
それだと、お父さんを会社に呼び寄せることになるじゃないの!

私はゴクンと唾を飲んで意を決すると、お父さんの方へ歩いて行った。


「香世子。久しぶりだな。大きくなった・・・」
「何の用」
「香世・・」
「なんでここに来たの?それも1年近く経っていきなり。お父さんにあげるお金、ないよ」

体が震えるのは怖いから?
それとも、またお金をせびりに来たお父さんに失望してるから・・・うん、そうだ。
今度は会社の近くまで来てるし。
そこまでお金に困ってるの?

なんか、自分のお父さんがこんな風になってると思うと・・・情けないし、恥ずかしい。
でも私はお父さんを助けることができないという自分自身へのふがいなさも、心の中で入り混じる。

「違うんだ、香世子。お父さん・・・」
「いや!」

叫ぶように私は言うと、私の方に伸ばしてきたお父さんの手を払いのけた。
そして「もう来ないで!」と私は言うと、泣きながら駅に向かって駆けだした。



アパートに帰った私は、お母さんとお姉ちゃんに、事の次第を話した。
どうやらお父さんは、お姉ちゃんのところへは行ってないらしい。
でも、もしかしたら行くかもしれない。
それにお父さんはまた、私のところへ来るかもしれない。

憤慨したお母さんは、怒りでワナワナ震えているお姉ちゃんをなだめつつ、「二度と子どもたちには会わない、連絡も取らないという約束は守ってください。さもないと、こちらも然るべき処置を取ります」という手紙を書いて、お父さんが住んでいるマンション宛に送った。


翌25日。
私は重い足取りで会社に行った。
幸いお父さんは、会社に張ってもなく、帰りに待ち伏せもしてなかった。
だからこのことを中元課長に言おうかどうか迷った挙句、結局私は言わなかった。

そして11月26日の金曜日。
私は20歳になった。

20歳になったからと言って、特に嬉しいというわけでもないし、一昨日お父さんに遭遇してしまった余韻をまだ引きずってる私は、気が重いまま、タハラに出社した。



「あぁ終わったぁ」

今日も一日よくやったと自分を労いながら、顔を左右にふって首のコリをほぐしていると、頭上から、「終わったなら着替えてこーい」という有澤さんの低い声が降ってきた。
私は慌てて「はいはいっ」と返事をすると、「おつかれさまでしたー」とみなさんに挨拶を済ませて、着替えをしに更衣室へ行った。


誕生日の今日は、有澤さんから「晩ごはん奢るから空けといて。場所は秘密」と、1ヶ月くらい前から言われていた。
高級レストランはダメだよ、肩凝るからと念押ししたら、有澤さんは笑って「行かん」と言ってくれた。

有澤さん、どこに連れて行ってくれんだろう。
行き先が分からないだけで期待度が上がるし、今夜のお出かけが特別に思えてくる。
・・・でも今日は私の20歳の誕生日だから、それだけで特別なのかな。
そう思えるのは、有澤さんのおかげかも。


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