倦怠期です!
「ごめん!今の違うから!忘れて・・・」
「この前、って言っても年明けのことだけど。私、酔っ払って出来上がったお父さんを迎えに行ったことあったでしょ?」
「あぁ・・・」

あれはタハラの新年会で、ちょうどその日、車を使ってた日香里に迎えに行ってもらったのよね。
私は顔に苦笑を浮かべながら、「あのときはごめんね」と日香里に言った。

「いいのいいの。でね、その時車の中でお父さんずーーーーっと、お母さんの自慢話ばっかりしてたんだよ」
「それはいつものことなのよ」

そう。
夫はお酒が入ると陽気になる。
飲む量が増えて出来上がる頃には、ますます陽気に、そしてベラベラと饒舌にしゃべるんですよと、部下の人たちが言っていた。

ハッキリ言って、陽気で饒舌な夫は可愛いと思う。
同時に、もしかしたら家では素の自分を出せてないのかな、無理させてるのかな、とも思う。
だって家ではあまりしゃべらないし。

「お父さんって、外ではお母さんのことを“嫁ちゃん”って言ってるんだね」
「あぁははっ」
「仕事の時はキリッ、ビシッとしてるのに、飲むと“嫁ちゃんラブ”になるギャップがいいって。それで理想の上司ナンバーワンになったってウワサだよ」
「あぁそぅ・・・」
「それからなんだっけ・・あ!そうそう、“俺は自分の嫁ちゃんとずーっと恋愛していたい”ってお父さんが言ったセリフが、女子社員さんたちの間で流行語になったんだってよ」
「はあ?なにそれ」

それは初めて聞いたことだ。
ちょっと驚き顔で日香里を見ると、少しだけ夫に似ている娘の顔が、私にニコッと微笑みかけた。

「お父さんって、デブでもビール腹でもないし、白髪はあってもハゲてないから、44って実年齢より若く見えて、年の割にカッコいいじゃん」
「そうだね」
「だから私はお父さんのこと自慢できるんだよねー」
「・・・ごめんね」

あぁ、自分でも疑惑止まりで確証が持てないことを、娘に言うんじゃなかった。

「ううん!えっとね、私が言いたいのは、お父さんが外見上カッコいいってことだけじゃなくてね。お父さんはお母さん一筋だってこと。温泉旅館もだけど、指輪だってネットでリサーチしまくってたし、私や遼太郎に“どういうのがお母さん気に入るかなー”って、しつこいくらい聞いてくるし。たぶん会社の人たちにも聞きまくってたと思うしー」
「あ・・はははっ」

夫って、意外と人を巻き込むタイプだから、それ、十分ありえる。

「お母さんのことだから、よほどのことがあってそう思ってるのかもしれないけどさ、私はお父さん、浮気してないと思うよ。まぁでも、本人に聞いたら手っ取り早く分かるんじゃない?」
「う・・・聞けたら聞くけど・・・いろいろ怖い」

仮に浮気を肯定されても、否定されても、今まで築いてきた信頼関係とか夫婦の絆が、悪い意味で変わると思う。
だから聞けない。

「ふーん。そこらへんは私、分かんないからなぁ。大体、彼氏いたことない私に恋愛のこと聞かれても、答えられない」
「あぁ・・・そぅね」

19歳の日香里は、男嫌いじゃないんだけど、男の人より女友だちとつるむほうが好き、それよりひとりでいる方がもっと好きだから、恋愛に興味はないみたい。
そういう私だって、19歳まで彼氏いたことなかったし、現夫のことが好きだという自覚もなかったし、恋愛はおろか、結婚しないと思っていたくらいだし。

夫だって、あの頃は私が因幡さんのことを好きだとか抜かしてたよね。
それに「ずっとアプローチしてた」って言ってたけど、私は全然気づかなくて・・・。

それから、日香里が「もうすぐバレンタインだね」と言ったのをきっかけに、夫の浮気疑惑の話は終わって、日香里のバイト先のコンビニで売ってるバレンタイングッズのことを聞いたり、今年は遼太郎、どんだけチョコもらってくるかなーと話していたところで、寝室のドアが開いた。

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