倦怠期です!
その日、定時で上がった俺は、ジムへは寄らずに家へ直帰した。

「あれ?ジム行かなかったの?」
「今日はいい」
「あ。そ・・・ぅ」
「日香里と遼は」
「日香里はまみこちゃんと晩ごはん食べて帰るって。遼太郎は部活。電話ないから、あと30分くらいで帰ってくると思う。たぶんマイカちゃんも一緒に」

ということは、少なくとも30分は、こいつと二人きり。
タイミングが良いことは重なるものだ。

ついニンマリした俺の顔を、嫁がキッと睨む。

こいつ、俺にがっつかれるかもと、警戒してるな。
だが30分しかないんだよなぁ。
時間は有効に使わないと。

「先に食べる?それとも子どもたちが帰ってくるまで待つ?」
「30分なら待つ」
「分かった。あの・・・なんでお店に来たの」
「近くまで来たついでと言わんかったか」
「聞いてないし、それだけじゃないと思うんだけど」
「なんでや」
「一つ。今、声が裏返った。二つ。あなたはガムを食べない」

うをーっ。しまった!
・・・さすがは20年連れ添ってる嫁だ。
俺の白々しい嘘に、ちゃーんと気づいてやがる。

「あなたのことだから、半年以上前の約束だって、ちゃーんと覚えてると思うし」
「ぐ・・」
「私には詰め寄ったくせに。言いなさいよ」

ええい、くそっ!
にじり寄ってきた嫁の、プンプン怒ってる顔すらめちゃ可愛い!!と思いつつ、俺はやけ気味に、「聞いたんだよ!」と言った。

「・・・なにを」
「おまえが若い男と仲良さ気にしゃべってたって」
「はあ?それいつの話?」
「先月の終わりごろ」
「ってことは、3月の話よね」
「ああ」
「それ聞かなくても、相手は一人しか思い浮かばないけど」と意味深に言う嫁に、今度は俺が、「誰だ!」と語気荒くにじり寄った。

「潤くん」
「・・・は」

俺は口をポカーンと開けたままの間抜け面で、嫁を見た。

「この前、って言っても、去年の話だけど。お礼を言いに来てくれたの。松坂さんが急に迎えに来れなくなったから、潤くんを家まで送ったって、あなたにも言ったわよね?」
「あ、ああ」

「松坂さん」と聞いただけで、ドキッとしてしまった俺の声が、ちょっと裏返った。
やばいじゃん・・・!

「マルショウに来たついでにって言ってたけど、潤くんのおうちからマルショウは遠いし、普段来ないから、わざわざお礼を言うために来てくれたと思う。ついでに言っておくと、その時その場に遼太郎もいたし、松坂さんもいたわよ」
「は、はぁ」
「3月じゃなくても、マルショウで“若い男”としゃべったのは、潤くんか遼太郎くらいしかいないから」
「そっか」

松坂潤くんは、遼と中学の同級生で、遼と同じ事務所でモデルをしている。
学業と部活を優先させてる息子は、いまだに補足的にしかモデルをしていないが、潤くんは本格的に芸能人を目指すのか、芸能コースがある高校へ進学したと聞いた。
それでもう潤くんとはほとんど関わることもない、ということは、奥さんにも関わることはないだろうと、ホッとしていたのに。

探るような目で俺を見るこいつは、何かあると疑ってる。

「もしかしてあなた、私がスーパーという職場を利用して、逢引してると思ってたの?!」
「あ、いや・・」
「まさか私が浮気してるとでも思ってたわけ!?この私が!」
「や。だからちゃう・・」

「大体、浮気してるのはあなたのほうじゃないの!」

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