倦怠期です!
だがこいつの肌に触れて、一つになりたいという欲望は膨れ上がる一方で、留まるところを知らない。
だからその日の晩、俺は久しぶりに嫁とベッドでイチャイチャした。
「子どもたちがまだ寝てない!」とかなんとか言いつつ、あいつも「スキンシップ」を求めていたのか、いつもより喜んでくれたと思う。

「なぁ」
「はーぃ」
「今度の週末、宿泊券使お」
「4月25日から5月11日までは使用できませんって書いてあったわよ」
「なんでや」
「ゴールデンウィークだからじゃない?」
「あ。もうそんな時期か。でもおまえ休みだろ?」
「うん」
「じゃあどっか出かけよう。今度こそ・・・」
「出かけるって言っても、遼太郎はバスケの試合があるし。日香里もピアノの発表会があるじゃない」
「毎日ないだろ」
「そうだけど。色々お金かかるでしょ」
「うーん・・・。なら一回くらい家族で外食しよう」
「・・・うん」

その日を境に、俺はほぼ毎日、嫁にがっつくようになった。


ゴールデンウィーク後くらいから、遼は隣に住む同級生のマイカちゃんとつき合い始めたようだ。
マイカちゃんは素直でいい子だし、遼とつき合うことは構わない。
マイカちゃんがよくうちへ来ることも、遼が隣のマイカちゃんちへ行くのも、全然構わない。
だが、マイカちゃんの父親である青龍(せいりゅう)さんが、「いつもマイカちゃんがお世話になってるから」と言って、「土産物」を持ってくるのは、正直言っていい気がしない。

というのも、青龍さんが持ってくるブツに対して、あいつはいちいち喜ぶから。
それはもう、心からって感じで。
今も嫁は、青龍さんから香水をもらって、すげー喜んでいるところだ。

「いいんですか?頼んだのは私だから、お金払いますよ」
「いーのいーの。いつもマイカちゃんがお世話になってるから。これくらいのことはさせてください」

あぁ出た出た!いつものキメ台詞が!
なんて意地くそ悪いことを思いつつ、俺はネクタイを緩めた。

なんでもあれは、イギリスにしか販売されてない香水とかで、先月「香世子さんって“香”の字が入ってるでしょー?だからこれなんていいかなーと思って」と、いつもの少々オネエ口調で言ってたよな。
同じ理由で、日香里にも別の香水あげてたし。
てか遼にも・・・俺にも。

青龍さんは、毎回必ず家族全員分の土産物を持ってくる。

俺は、イギリスを始めとした海外へ仕事で行くことはないし、家族旅行に連れて行くこともできない。
あっちの有名どころの紅茶とか、菓子とか、高級品全般を買ってやることもできない。

ということより、あいつが喜ぶようなものを買ってやることが、全然できない。

そんな俺のセンスのなさに卑屈になっていじけてることは、俺にも分かってる。
分かってるよ?

だが・・・青龍さんとしゃべってるあいつは、心から楽しそうに笑うし、自分が女だと意識してるように見えて、「もしかしたらあいつ、青龍さんに惚れてんのか?」と疑ってしまう。

がーっ!
俺だって土産物もらって、実は喜んでるくせに。
俺ってどこまで狭い男なんだ・・・。

と落ち込んだ翌日。
うちのドアの前で立ち話をしている、青龍さんと嫁を見た俺は、咄嗟に二人めがけてズンズン歩いていた。

一難去ってまた一難、じゃないが、「スーパーの若い男疑惑」より、間近で見せつけられてるこっちのほうが、断然真実味がある。

俺・・・俺の香世子を盗られたくない!

「・・・そー。あ、仁さん。おかえりなさ・・・」
「俺の嫁に、なんか用すか」

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