倦怠期です!
それから5ヶ月近く過ぎた、12月の初め。
娘の日香里が、生まれて初めて彼氏を連れてきた。
しかもその彼は、日本で一番売れてるロックバンドと名高い、「RAIZ(ライズ)」のギタリスト、リョウタこと・・・。

「牧瀬良太です」
「えーっ!!!やっぱり?やっぱりリョウタよねっ!?あらやだ。私、“リョウタ”なんて呼び捨て・・・」
「なんでおまえが舞い上がってんねん」
「あのー。これにサインしてください」
「遼までっ!」

あぁ俺たち、完全なミーハーって思われたじゃんと嘆く夫が、実はこの中で一番舞い上がっていると、妻の私は知っている。
ただ、今の夫は、眼前にいる牧瀬良太氏を、「ライズのリョウタ」ではなく、「娘の彼氏」という目で見ているため、非常に緊張している度合がミーハー根性を上回っているだけだ。

そんな私たちに、リョウタさんはニコッと微笑むと、遼太郎が差し出したTシャツにサインしている。
実に気さく。
この中で一番リラックスしてるのは、彼なのかもしれない・・・。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!これ着て練習しよ。あ、でも洗濯できないよなぁ」
「遼太郎くんはバスケしてるんだってね」
「はいー」

早くも遼太郎は、リョウタさんと打ち解けて話している。
これも世代の差?

と思ったものの、それからすぐ、夫とリョウタさんは、ロックの話で盛り上がった。
大学生の頃、ロックバンドのボーカルをしていた夫は、まさかここでその知識や情熱が役に立つとは、想像すらしていなかっただろう。

「で?日香里はリョウタさんのこと、何て呼んでるんだ?」
「えっと・・・・・・リョウタさん」

わぁ。私同様、「恋愛に興味ない」と言っていたあの娘が・・・こんなに照れて。
まさに恋する乙女、そのものじゃないの!

「遼と名前が似てるもんなぁ」と言ってる夫を横目でチラッと見つつ、私は少々心配になった。

何といっても日香里の彼氏は、有名なロックバンドのギタリスト。
そんな大物と、ごく平凡な音大生の日香里がおつき合いすること自体、奇跡に等しいけど。
長続きするの?

という私の危惧は、リョウタさんから「日香里ちゃんと結婚します」と言われたことで、さらに膨れ上がってしまった!

それは夫も同じなのだろう。
急に表情を硬くすると、「出会ったのはいつ」と、二人に聞いた。

「今年の9月」
「ゲリラライブをしたときです」
「まさか“まみこちゃんちに泊まる”って電話してきた、あのとき?」
「あ・・・・・・ぅん」と言ってうつむいた日香里を、私はじーっと見た。

「まぁ、私にも覚えがあるから、強いこと言えないけど」
「おまえ、お義母さんに俺んとこ泊まるって、あんとき言わんかったんか」
「言えないでしょ!お母さんは、私があなたと一緒だってことすら知らなかったんだし」
「二人とも、論点ずれてるよ」
「あぁはい、すいません」となぜか息子に謝る私。

「とにかく、つき合い初めて3ヶ月も経ってないのに結婚するのはなぜだ」
「まさか・・・できたの?」

そんな・・・母と娘、まさに同じ道をたどってるじゃないの!

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