倦怠期です!
「えっ!?やだ、お母さんったら、泣きそうな顔して。私まだ妊娠してないよ」
「それは後の楽しみにとっておきます」
「ぶっ」

リョウタさんのユーモアに、緊迫したその場の空気が、少しずつ和んできた。

「日香里と結婚したい理由は・・・もっと、ずっと一緒にいたいからっていうのが一番の理由かな。メンバーも次々と結婚して、子どももできて。そんなみんなを見てたら、結婚っていいなーって思えた頃、日香里と出会ったんです。こいつがそばにいてくれたら、人生の幅が広がるというか、豊かになるというか。同時に日香里に対しても、俺がそういう存在でいてくれたらいいな、いや、そうありたいと。そういう風に思ったのは、ぶっちゃけ初めてで・・もうとりとめのないことばかり言ってすいません!俺、実はすっげー緊張してて!ご両親に挨拶とか、生まれて初めての経験だし」

今にも土下座しそうな勢いで、そう言いきったこの彼は、「ライズのリョウタ」ではなく、「牧瀬良太」という、日香里を愛する一人の男性だと思えて。

私はホッとして泣きそうになった。

「てか・・・良太と日香里のほうが、俺よか年の差があるってのもなぁ」
「それだったら、私の方がもっと年の差ないじゃない」
「いやぁ。話には聞いてたんですけど、実際お会いすると、お二人ともすげー若くて。義理の両親というより、年の離れたお兄さんとお姉さん、みたいに感じて・・ははっ」

確かに。良太さんは35歳。
20歳の日香里とは15の年の差があるのに対して、45歳の夫とは10、41になった私とは、6つしか年齢の差がない。
そんな彼に、これからは「お義父さん・お義母さん」と呼ばれるのか。

クスクス笑いだした私に、夫が「どうした」と言った。

「ん・・・なんかね、楽しいなーと思って」と答えた私を見た夫も、つられるようにククッと笑い始めたのを機に、みんな笑いだした。

そしてひととおり笑いの渦が収まると、スッと背筋を伸ばした夫が、「娘のこと、よろしく頼みます」と良太さんに言って、深く一礼した。
私も夫と一緒に一礼したときには、泣きそうになっていた。

「お父さん、お母さん・・・ありがとう」
「俺、正直言って、日香里には贅沢三昧な生活をさせてあげられないと思います。華やかな芸能界に身をおいてても、実際の生活はすげー地味だと思うし。でも、日香里や、これから先生まれて来る子どもたちを路頭に迷わせたり、不自由な思いはさせません」
「どこかで聞いたセリフ」
「だな」

子は親を見て育つのか。
一緒に暮らしていると、思考まで似てくるのか。

私は、「日香里、素敵な人に出会えて良かったわね」と言うと、夫にニッコリ微笑んだ。


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