full of love~わが君の声、君の影~

ユルシ


今日子さんの命日が過ぎると決まってかかってくる1本の電話がある

加害者の代理人
今日子さんをはねたトラックの運転手が謝罪したいから会いたいと言ってくる

当然顔も見たくないからと拒否する

今年も即効で断った
それを隣で聞いていた今日子さんが思いがけないことを言った

『会ってみてくれない?』
「どうして?」
『聞いているでしょ?ほとんど休みなく働かされた上での事故だって・・当時まだ23歳だったのに・・交通刑務所入って、出てからも車のハンドル握れなくなったから元の仕事に戻れなくて、職を転々として・・頼る家族もいなくてひとりぼっちですごく苦しんでいた・・自分を責めて責めて自暴自棄になって・・』
「やけに詳しいね?幽霊になってから彼のところにも行っていたのか?」
夜中の行先はそこか?

『だって気になるじゃない?私のせいで人生狂わせてしまったのよ』
頭に血がのぼる
「私のせい!?何言ってるんだよ!どこまでお人よしなんだよ!」
声がでかくなる

「俺たちだって人生変えられたよ!俺もどれだけ苦しんだか!さくらはまだ4歳だったんだぞ!たった4歳で母親を奪われたんだぞ!」
『わかってる!わかった上でお願いしている。許せとは言わない。ただ会って話を聞いてあげて・・』
「自分を殺した相手だぞ!」
『殺されたわけじゃ・・そりゃ私だって・・もっと生きたかった・・クヤシイ。許せないよ。だけど自分で命を断とうとするのはもっと許せない。・・たまたま私があそこにいただけ。ただそれだけなのよ・』
「何言ってるんだよ!どうかしているよ!今日子さんそいつに同情してるのか?それとも・・」

愛情か?そう言いかけて俺は口をつぐんだ
だが今日子さんはそれを許さなかった
『それとも・・何?』
俺は目をそらす

「あ」
顔を上げたときもう今日子さんの姿はなかった

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