full of love~わが君の声、君の影~

彼女の声は落ち着いているのではない。
抑揚がないのだ。
彼女は自覚がないようだが
感情が表に出にくい。

俺はそういう人を知っている。
それは周りに誤解を招く。
悪い誤解ではないだろう。
むしろ俺が感じたように好印象を与える。

だが時としてそれは彼女を追い込む。
例えば「助けて」という同じ言葉を2人の人が言ったとする。
彼女は間違いなく後に回されるだろう。

大丈夫じゃなくても大丈夫そうに聞こえてしまうのだ。
そうすると彼女は誰にも助けを求めることができなくなる。

自分ひとりで何とかしようとする。
自分さえ我慢すればいいと
それがクセになる。


「もしもし?どうしたの?」
突然押し黙った俺を伺う。
その声にも苛立った様子はない。
どこまでも優しい。

――彼女の顔を見て話したい
表情がわかれば・・

「ああスミマセン・・もう時間ですね」
「あっホント。ごめんね何かバタバタしちゃって」
俺が彼女を気遣うところなのに。
「じゃあまた」

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