full of love~わが君の声、君の影~
あの時
彼女の目はおびえていたのかもしれない。
声は震えていたのかもしれない。
ストールをかけてくれる手も
薬と水を渡してくれる手も震えていたのかもしれない。
なのに俺は勝手にまるで彼女を救世主のようにすごい人だと思った。
―――『お前のその勝手な期待は相手には迷惑にしかならねえぞ』
神島の言う通りだ。
ライブの招待だって俺が勝手に決めたことだ。
電話もメールも俺からなかば強引に聞きだして
「大丈夫」という彼女の優しい声に甘えていつも俺の方からかけている。
俺は自分のこの耳を面倒だと思いつついつの間にか頼り過信していたことにショックを受けた。
(迷惑だと思っているのかもしれない・・)
急に怖くなった。
俺は頭で考えるより先に体が動くタイプだと神島に言われたことがある。
感性がイイ証拠だとかで“この仕事に向いている”と珍しくほめてくれたのだが
それは時に相手のことより自分の感情を優先させてしまうことでもある。
自分が彼女をどう思っているかより
彼女が俺をどう思っているのかなんて考えもしなかった・・
聞いてみようか?
でも本当に迷惑だと言われたら?
そうしたら俺は二度と彼女の声を聞けなくなってしまうのか?
・・・俺はそれを恐れているのか?
相手は子持ちの既婚者だぞ?
いや
恋愛感情なんてない。
ただ、声が聞きたかっただけだ。
そうだよな?
考えが逡巡してる。
でもそのどれも俺一人の勝手な感情だ。