full of love~わが君の声、君の影~

かくして唯一オフで暇だった俺はしぶしぶ大人たちの後ろから会場について行った。
(お前も大人だろっという神の突っ込みが聞こえる気がするが却下)
知っている顔もいるがほとんど初対面。
社長たちに言われるがまま頭を下げ、握手をし、愛想笑いを浮かべる。

これも仕事だ。それもこの業界では大事な仕事だ。
いやってほど、思い知らされている。
こういう裏の一見地味な部分。

今は有り難いことに俺たちのかわりにほとんど社長を始め事務所の人たちがやってくれているが、若いうちは顔を覚えてもらうだけでも必死だったからあちこち訳もわからず連れて行かれた。
その大切さもわからず生意気なこといって皆に迷惑をかけたこともある・・

(本来は自分たちでやらなきゃいけないことなんだよなあ・・)
だからもう少し気の入った顔をつくらないとと思いつつも
つい社長たちが俺とは関係ない話で盛り上がっていると暇で
(あ~あ久しぶりに今日子さんに電話しようと思ったのに・・)などと考えてしまう。

前の電話で彼女の声の影の部分に気がついてしまってから何となくかけづらくなっていた。
自分の気持ちの整理もついてないままだ。

でもやはり彼女の声が聞きたい。



「いつもお世話なっています」
あれ?この声?

そこへチーフに腕を引っ張られた。
「ほらボーっとしてないで!次はこっち来て!」
「あ。はい」
はは、まさかね・・

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