full of love~わが君の声、君の影~

予定通り退院できた。
瑠南はすぐにも会いたいと言ってくれたがまだ傷が痛むからとかまたすぐに連絡すると言って断った。
次の約束もせずに断ったのは初めてだ。

何故か一人になりたかった。
いや本当はあの人に電話をしたかった。

仕事復帰してからもスタッフはもちろんファンの子たちから身体を気遣う声やメールや手紙、プレゼントももらった。
ああ俺はこんなにも愛されている
これからは全力で皆に応えなければ がんばらなければ


なのに
足りない

あの人の声が足りない

手術前眠れない俺の耳の奥にあの声がふっと現れてから
入院中ずっと離れなかった。
何度も連絡しようと声だけでも聞きたいと携帯に手が伸びるが
押し留まっていた。

初めての入院と手術で心細くなっているだけだ。
だから
退院すればその想いが消えるかと思った。

だが消えなかった。


でもどうにもならない
どうもしてはならない
そう決めた。

そう決めたはずなのに
胸の奥で消えたはずのものがまたジリッジリッと音をたてる。

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