ブランコ。


「今日は何があったんですか?」

「ははは……わかりますか?」

「ええ、なんとなくね」

「はあ……なんとなくですか……」



彼、ニヤけ男、片桐課長は、ある日突然、会社を辞めた。

全員で説得もしたし、理由も聞き出そうとした。

理由さえ話してくれれば、彼の事だから、僕らは許せそうな気がした。

だけど、彼はただ、いつものあの笑顔で笑っているだけだった。



「まあ、コーヒーでもどうですか? ただし、お金は払ってくださいね」

「ははは、いただきます」


僕は列の一番奥、清涼飲料水のコーナーから、缶コーヒーを取り、レジへ置いた。

彼は慣れた手つきでバーコードの機械を操作すると、「百三十円です」と言った。

僕は小銭を渡す。


「ありがとうございました」


と、あの笑顔でそう言った。


「ありがとうございます」


僕も真似して笑顔で答えた。
< 93 / 260 >

この作品をシェア

pagetop