ブランコ。


「高梨君、君にだけは教えておきましょう。僕は普段は人の優劣はあまりつけません。なので、査定でも不満を覚えたかもしれません」


送別会の日、片桐課長は僕の隣に来るとそう言った。

僕は首を横に振りながら、感謝の気持ちを、伝えきれないほどの感謝の言葉を言おうとした。

そんな僕の言葉を手で制しながら、彼は続ける。


「人に優劣をつける、という行為は、本来あってはいけないと僕は思っています。だけど、それでは社会人としてやっていけません。だから、僕が今から言うことは、優劣をつけると言う意味ではなく、誰が高梨君の味方になりうるか? ということを見分ける方法です」


片桐課長は人差し指を立てながら続ける。

若干、目が潤んでいるのは酒のせいなのか?


「いいですね。良い先輩方の見分け方は、僕ら一緒に過ごしてきた課員には容易に出来ることと思います」


彼は同意を求めるように、僕の目を覗き込む。

僕は少し頷き、話の続きを促した。


「問題は新入社員です。時代は刻々と変わってきています。入社してくる人物の背景も刻々と変わってきています。だけど、根底に流れる大事なものは昔から変わらないと僕は信じています。高梨君、新入社員の時、よく居眠りしていましたね?」


僕は課長の言葉に一瞬ドキリとした。

確かに僕はよく居眠りをしていたと思う。

そして、そう言えば、それに関して一度も注意されたことがなかったことを思い出した。
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