GOING UNDER(ゴーイングアンダー)
 答えようとしない琴子にママは苛立ち、さらにたくさんの言葉を投げつけてきた。ママに内緒で男の子とつき合ってるんじゃないでしょうね。違うの? 本当でしょうね? じゃ、さっきの電話は誰? 本当に心当たりがないの? どうして黙ってるの? あるの? ないの? あるのね? はっきりしなさい。

 琴子にはただうつむいて黙って時の過ぎるのを待つ以外、どうしようもなかった。けれどもママの追及はやむどころか、さらに激しくなる。

 答えなさい、琴子。こっちを向いて。ママの言うことがきけないの? いつからそんな悪い子になったの? 
言いなさい。誰? 誰からの電話だったの?

 うつむいたまま琴子は、小さな声でしぼりだすように、言えないと答えた。そして、さらに小さな声で、だって知らない人だったから、と言い加える。

 嘘は許しませんと言って琴子を睨むママの前で嘘をつくのは身がすくむ思いだった。けれども本当のことは言えない。梅沢紀行のことを知っているのだと、兄から聞いたのだとママに言わなければならなくなる。

 知らない人って同じ学校なの? 同じ学年? クラスは違うの? 背の高い子? 低い子? 本当に一度も話をしたことなかったの? 何の話をしたの? 学校の生徒じゃなかったの? なあに? 高校生?
 なんてこと。学校の外で知らない高校生に声をかけられて、あなたは話をしたの? なんてことかしら。それで、知らない人に電話番号を教えたの? あなた、自分が何をしたかわかってるの? いけないことだってわからないわけじゃないでしょうね。

 電話番号なんて教えてないと必死で首を振る琴子をママは、冷ややかな目で見下ろした。本当でしょうね。じゃ、どうしてうちの番号を知っているの? どうして柿崎って子の名前で掛けてきたの?

 そんなこと知らない。琴子が否定しても否定しても、ママは追及してきた。どれだけ長い時間、そうしていただろうか。
 
知らない、わからないと繰り返す琴子に、やがてママは厳しい声で言った。琴子ちゃん、あなただって悪いのよ。あなたに隙があるから、変な人に声なんてかけられるの。髪だってそんなに長くして、男の子の気を引こうとしているんじゃないでしょうね? そうだわ。髪はもっと短くしなさい。これからS高を受験するんだから、髪の手入れにかかわずらっている場合じゃないでしょ。

 一瞬目を見開いてママを見返し、髪、切りたくないと答えた琴子に、ママの目つきはいっそう険しく、口調は激しくなる。

 ママに逆らうの? ママはあなたのためを思って言っているのよ。第一、そんなこと言ってられると思ってるの? 知らない男の子に声を掛けられて、電話番号まで知られたんでしょう? そんなこともわからないの? 家までつけてこられてるかもしれないのよ? もっと怖いとか危ないとか思わなきゃいけないのに、ぼーっとしてるからつけこまれるのよ。それに、そんな長ったらしい髪でいたら、これからだってどんな人に目をつけられるかわかったもんじゃないわ。
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