GOING UNDER(ゴーイングアンダー)


 途切れ途切れにママの言葉を説明していた琴子は、不意に声を詰まらせ、そのまま黙り込んだ。
 美奈子は自分の肩にもたれかかったままの琴子の頭にそっと手を伸ばす。柔らかな髪を指で梳いて、優しくすくいあげる。

 緩やかにウェーブした、明るい色の、ふわふわの髪。結わえたりせず、そのままおろしていると、おとぎばなしのお姫様のように華やいで見える。でも、そんな琴子の姿は、誰も知らない。固めに結わえたおさげを地味な色のゴムで止めて、鉢担ぎ姫のようにうつむいて、日々を過ごしてきたのだから。

「琴の髪、せっかく綺麗に伸びてきたのに、もったいないね」

 思わずそう感想を漏らした美奈子に、琴子は少しためらってから続けて言った。

「ママにね、怖いこと、たくさん言われたの」
「どんな?」
「ストーカーにあうとか、強姦、されるとか……たくさん言われ過ぎて、全部は覚えてない。ママの言うこときかない子は、ひどい目に遭ったって知らないって」
「ねえ、琴……」

 ためらいがちに、けれども密かな決心を込めて美奈子は切り出した。

「琴のママの言ってること、むちゃくちゃだって、琴はもうわかってるよね」

 琴子の返事はない。

「ママの言う通りにしなくたって、そんなひどいことなる危険が別に高くなるわけじゃないし、言うことさえきいていれば絶対安全ってわけでもないよね」
「あたし……わかんない」

 美奈子は体を起こし、力なく首を振った琴子の手をぐっとつかんで引っ張った。

「考えてよ」

 黙ってうつむく琴子に、美奈子は重ねて言った。
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