フライング
頷いた彼の左手が、私の右手に触れた。
ゆっくりと、優しく。
包み込むように。
そして。
戸惑う私の右手を、コートのポケットの中へと導いていく。
彼の思わせぶりな行動に、私はいつも振り回されて。
もしかしたら、この恋がうまくいくんじゃないかと期待してしまう。
「ジ、ンくん…?」
「ん?」
「これは、ちょっと……。マズイと、思う」
「なんで?あったかくない?」
「………あったかい、けど」
「大丈夫だよ。もうすぐ曲がるし」
私がチラチラと、ヤスくんとミサトの様子を窺っていたことに気づいたのか、彼がそう言った。
「………でも、ね」
「あ。ほら」
見ると、ちょうどふたりが角を曲がるところだった。
もうすぐ見えなくなる。
そう思った直後、私の視界が遮られた。
唇に、柔らかい感触。
それが彼の唇だと知ったのは、数秒後。
耳元で、彼が囁くように言ったから。