STEP UP
冷たい空気の中を小さな雪の結晶が舞うような季節。

「結先輩。ここの問題あってる?」

難解な数学の問題をやっとのことで解いて、すぐ後ろのソファーの上で本に夢中の想い人に声をかけた。
結先輩は読みかけの本を閉じると、テーブルの上のノートを手にとって答えの確認をしてくれる。
(んー、なんか先生に採点されているみたいだ)

「合格」

大きな手で頭をくしゃくしゃとされ、なんだか小さな子ども扱い。

「あと一問。がんばれ」

ノートを元の場所に戻して、また本を開く。
今日の数学の宿題はあと一問。

放課後、俺の部屋に来て宿題をすることが日課になりつつある今日この頃、大学受験が終わって、少し余裕の出てきた結先輩が残り少ない時間を俺のために使ってくれるのがうれしい。

英語は得意だけれど、数学が少しばかり苦手な俺はつい先輩を頼ってしまう。自分でもできるだろう問題も、ついつい聞いてしまう。

「疲れたー」

ノートの上にうつぶせる形で恨み言を言ってみた。結先輩は好きなことやっているのに、俺は宿題なんてずるい。

「終ったら、お茶にするから」

視線は本に向けたまま。

そんなこと、わかっているよ。
そうだ。

制服のポケットを探ってみる。確か今日学校でもらったものがあるはず・・・。

小さな白と、ピンク色の包みを取り出してちょっと眺めてみた。
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