10回目のキスの仕方

姉の襲来

* * *

 8月の第2週。つまりはもうすぐお盆の時期である。現在時刻は夜7時半。圭介はたまたま自宅にいた。テーブルの上に置いていたスマートフォンが揺れた。

「…もしもし。」
『ねーねー開けて。』
「かける相手、間違ってる。春姉。」
『間違ってない。』

 ドンドンと玄関のドアを叩く音が聞こえる。電話越しの言葉は間違っていないようだ。圭介はゆっくりとドアに近付き、鍵を開けた。

「…インターホンなるものがあったはずなんだけど。」

 圭介の目の前には茶髪のストレートロングを無造作に束ねた女が立っていた。

「この可愛い子がこのドアの前でおどおどしてたんだけどさ。」
「…美海。」
「あ、あの…す、すみません…えっと…。」
「あ、あたし?圭ちゃんの彼女です!」
「…違います。」
「あのっ…私帰り…。」
「らなくて大丈夫。彼女じゃないし。姉。小春(コハル)。」
「ごめんね美海ちゃん!はじめまして。浅井家長女の浅井小春です。」

 小春が頭を下げる。美海もつられて思い切り頭を下げた。

「で、このかわいこちゃんこそが圭ちゃんの彼女?」
「そう。」
「ま、松下美海です。はじめまして。」
「はー…圭ちゃんいつの間に…こんな可愛い子を捕まえるなんて隅に置けないわねー。」

 美海の心拍数は異常なくらいに上昇していた。ただ、圭介に作りすぎたおかずを渡しに来ただけだったはずなのに、玄関でインターホンを鳴らすのに躊躇っているうちに、圭介の姉に出会うとは。

「ねー圭ちゃんの部屋早く入れてー。」
「…帰れって言っても帰らないのが春姉。」
「よーくわかってるじゃない!さ、美海ちゃんも!」
「えっ、あ、あのっ…私出直して…。」
「何かあった?だから来てくれたんじゃないの?」
「えっとあの…肉じゃがを作りすぎてしまったので…。」

 言いながら、美海は段々恥ずかしくなってきてしまった。声が小さくなる。

「…ありがとう。」

 いつの間にか小春は圭介の部屋にあがっていて、玄関先には二人しかいなかった。圭介の部屋からテレビの音が聞こえる。
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