10回目のキスの仕方
「さて、これで浅井家揃いました!早くご飯食べよー!」

 小春が手招きをする。美海は一度圭介の方を見ると、圭介と目が合った。

「ん?」
「あ…えっと、な、なんでもない、です。」
「え、なんか嘘くさい。」
「え!?」

 香歩を抱き上げた圭介が美海の隣に並んだ。香歩が美海の方に手を伸ばしている。

「抱いてみる?」
「えっ!?だ、大丈夫…ですか、私で…。」
「香歩、大人しいから大丈夫じゃない?はい。」

 圭介の手から香歩を受け取って胸に抱く。ふわふわの髪が頬にあたってくすぐったい。温かくて優しい匂いがする。

「香歩ちゃん、はじめまして。あ、くすぐったい。」

 柔らかすぎる髪の感触が、妙にくすぐったい。そんな美海を見つめる圭介の目は、いつにも増して優しい。

「あーいつの間に香歩、美海さんにだっこされてんだよ。まったく…人見知りもしない甘えん坊で…。重くないかい?」

 亮介にそう問われて、美海は首を横に振った。

「重くないですよ。身体も髪も柔らかくて…くすぐったいです。」
「あ、その感覚、ちょっとわかるよ。抱き心地最高だろう?」
「はいっ!」

 目を細めて笑う姿はやはり父親に似ていると美海は心の中で呟いた。香歩は美海の顔を見つめながら、時々美海の髪を引っ張っている。

「香歩ー髪引っ張るなー。」
「こんなの全然、大丈夫ですよ。」

 浅井家に流れる空気は、温かくて優しい。それは、最初に圭介の父親に会ったときから感じていたが、変わらない。後から来た亮介も香苗も香歩も、その温もりは変わらないような気がする。
 自分が幼い頃感じていた空気とは真逆の空気が当たり前のようにあって、当たり前のように流れていくのがとても不思議な感じがする。ただ、かつての自分が感じていたような、『いつか壊れてしまうのでは』という雰囲気は全くない。
 もっと馴染めないのではないかと思っていた。圭介の家で、電話をした時から。自分は今、上手く溶け込めているのだろうか。

「圭介、くん。」
「なに?」
「…私、浮いていませんか?」
「浮く?浮いてるのはうちの家族の方だと思うけど。」
「…そう、ですか…。」

 不意に美海の頭の上に圭介の手が乗った。

「え…?」
「何を不安に思ってるか知らないけど、大丈夫。この家で難しいことを考える方が多分無理。」
「…そう、かもしれませんね。」

 圭介が優しく口元を緩める。それに応じるかのように、美海の口元も小さく緩んだ。
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