10回目のキスの仕方

どうしても怖い

* * *

 浅井家1日目の夜、美海は小春の部屋にいた。

「さーてっ、こっからが本番よ!ね、日和!」
「もちろん!美海さんに聞きたいことたっくさんだし!」
「うるさい小姑圭ちゃんは追っ払ったし。」

(…酷い言われ様だ…。)

 美海のそんな心の声は無視して、小春と日和という最強タッグによる質問攻めが行われようとしていた。この光景は修学旅行の図に似ているような気がする。小春はベッド、その下に布団が2枚敷かれている。ベッドの横は美海で、その隣は日和だ。タオルケットを被ってごろごろしてはいるものの、口は一向に休まる気配がない。現在時刻は10時半だ。

「じゃー早速切り込んだ質問、いいかな美海ちゃん!」
「えっと…あの…お答えできるかどうか…。」
「じゃあいきます、第一問!告白はどっちから?」
「えっ?」
「圭ちゃんからでしょー?」

 日和がずいっと美海の方に顔を寄せた。その顔は興味津々だ。

「…えっと…あの…。」
「美海ちゃんからなわけないか。美海ちゃんって好きな人に好きって言えないタイプな感じ!」
「っ…!」

 のっけから大当たりである。現在進行形で圭介の優しさに甘えている。

「でも、圭ちゃんには好きって言ったんだよね?それっていつ?」
「……えっと…。」

 いつも何もない。圭介に『好き』だと言えない。気持ちを疑っているわけではないのに。それは目下、美海が考えていることだった。

「待って…その様子、…もしかして、言ってないの!?」
「え、じゃー圭ちゃんの片思い!?かなしーっ!」
「いや、えっと…待ってください!そ…そう…じゃない…こともない…のですが…。」

 煮え切らない態度しか取れないのは、全て自分のせいだ。わかっている。

「圭ちゃんのこと、嫌いだったらここまでついてこないよね?美海ちゃん見てて、圭ちゃんのこと嫌いには見えなかったんだけど。」
「…嫌いじゃ…ないです。そんな風に思ったことなんて一度も…。」
「顔のレベルは美海さんの方が格段に上だけど、でもお似合いだなーって思ったよ、あたし。」
「それでも圭ちゃんに『好き』って言えないって感じ?」

 美海は静かに頷いた。出会ったばかりの人にどうしてこんな風に本当の気持ちを伝えることができるのか、わからない。それでも、嘘を突き通せるわけもないのは明白だ。
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