10回目のキスの仕方
* * *

「話、終わった?」
「…小春…さん…。」

 圭介の病室の前にある大きなソファーに小春はいた。目がやや腫れぼったい美海は、少し視線を泳がせた。

「あ、泣き止んでる。圭ちゃんすごーい。さて、一緒に帰ろうか。」
「…はい…あの…。」
「んー?」
「待っててくださって…ありがとうございます。」
「いえいえー。美海ちゃん一人じゃ、ここから帰れないしさ。それに…ちょっと話したかったから。」
「…話、ですか?」
「うん。個人的な見立てを伝えたくて。」
「見立て…。」

 『見立て』なんて言葉はなかなか使わない。美海はごくりと息を飲んだ。病院を出て、道なりを歩く。夕方の風は少しだけ涼しい。

「圭ちゃん、思ってたより大丈夫で良かったね。」
「…はい。」
「あのね、美海ちゃん。」
「…はい。」

 少しトーンの落ちた小春の声。いつもの明るく元気な小春とは少し違う空気が生まれてしまった。

「圭ちゃんのこと、好きだって言って、大丈夫だよ?」
「え…?」

 『好きだと言っても、大丈夫。』
 それは本当に、そうなのだろうか。

「圭ちゃんは美海ちゃんをちゃんと好きだよ。美海ちゃんも圭ちゃんのこと、ちゃんと好きだよ。だからちゃんと好きだって言ってほしい。」

 『姉なりに、圭ちゃんの幸せ祈ってるし。』と付け足された言葉は、小春の本心であることは疑いようもない。

「…圭介くんの気持ちを…疑っていま…せん。」
「うん。だからそれと一緒に美海ちゃんの気持ちも疑わないでよ。」
「…それ…は…。」

 そこで言葉に詰まった。自分の気持ちを疑っているという言葉は、確かに当たっているかもしれない。

「…好きだって言って、より気持ちが確かになるってことはあると思うよ。美海ちゃんは…何を怖がってる?」
「怖がって…る…。」

 こんな風に自分に踏み込んでくる人は生まれて初めてだ。明季はこんな風に美海には接しない。だからこそ戸惑う。こんな時に、自分は一体どんな風に返したら良いのだろうか、と。
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