10回目のキスの仕方
「…圭ちゃんが怪我したのが怖い?好きって言うのが怖い?何が怖くてあんなに泣いたの?何が怖くて、…震えてたの?」

 ゆっくりと思考を巡らせた。頭の中に、心の中にずっとあった想いがゆっくりと口まで回ってくる。

「…全部、です。ずっと…ずっと…私は怖かった。」
「うん。そっか。納得。」

 『続けて。』という言葉に励まされて、美海はゆっくりと再び口を開いた。

「…今も、怖いんです。圭介くんが…いなくなってしまうこと。…好きって言ったら…離れたときが辛い…から…。」
「そうだね。好きな人がいなくなっちゃったら悲しいね。」
「…でも、…ずるずると言えないでいることも良くないって…変わりたいっていう気持ちもあるんです。」
「変わりたい?」
「…はい。圭介くんの家族の皆さんに会って、…いいなぁって思いました。好きなものを好きって言って、たくさん笑って…相手を大切に想って…。そんなことが当たり前にできるのが…いいなぁって。」
「そっかぁ。美海ちゃんに浅井家はそんな風に映ったか。」

 圭介が無条件に優しいのは、無償の愛を受け続けてきたからなのだと思った。自分は違う、とも。ただ、それを理由に甘え続けることはしたくないと思ったのも確かだった。

「…好きなものを失うのが怖くて、…いつしか言えなくなっていました。気持ちは…多分、ちゃんとあるのに。」

 『そうだね。』という小春の声は優しい。トーンが圭介によく似ていて、涙が出そうになるのを美海はぐっと堪えた。

「でも…圭介くんが事故に遭ったって聞いて、…身体中が凍ったように重くなって、涙が止まらなくなって…もっともっと怖くなりました。」
「もっと…怖い?」

 美海は頷いた。怖くなった。失うこと自体よりも、何も伝えなかったと後悔することが。

「…死んでしまうなんて、思っていたわけじゃ…もちろんないんです。それでも、…突然別れてしまうことは、ある。関係が切れて、戻らなくなってしまうことが。…圭介くんともし…そんな風になってしまったら…。後悔するなって…。それが怖くなりました。」
「ふぅーん。でもとっても良い傾向♪」

 小春はにっこりと笑って美海を見つめた。

「美海ちゃん、頑張れ。圭ちゃんはどんな話も聞いてくれるイイ男だよ。」

 バシッと背中を叩かれて、美海は少しむせた。そんな美海を見て、小春は大きな声で笑った。
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