10回目のキスの仕方

置いてきたはずの人

* * *

 夏休みは静かに終わり、10月の下旬となった。暑さは日に日に和らぎつつある。今日は圭介と駅でショッピングを楽しんでいた。

「そういえば、神崎さんが言ってたんだけど。」
「はい?」
「美海の誕生日、もうすぐだって。」
「あ、は…はい!そうですね、もうすぐです。」
「いつ?」
「えっと、11月の15日です。」
「あと2週間ちょいか。」

 ハロウィンの装飾が色とりどりに店を飾る。もうそんな季節だ。

「何か欲しいもの、ある?」
「え…?」
「というか、俺、美海の好きなものが多分、ほとんどわからないから。」

 『だから、何をプレゼントしていいか正直よくわからない。』と圭介は付け足す。何も知らないのは、自分だって同じだ。

「…私も、同じことを考えたことがあります。」
「同じこと?」
「誕生日、私も教えてもらっていいですか?」
「あー…うん。2月5日。」
「え、冬生まれなんですか!?」
「うん。」

 これで一つ、圭介のことを知った。

「…話、戻してもいい?」
「あ、はい。」
「欲しいもの。」
「あ…そうでしたね。」

 欲しいものと言われても思い浮かばない。バイトのおかげで欲しい本は買えているし、もともと物欲があるほうではない。

「…欲しいもの…あ、あります!」
「何?」
「あ…でも高いですね。だめです。却下です。」
「何で美海が却下するの。値段はいいから、とりあえず言って。」
「えっと…今浮かんだのは…眼鏡、です。」
「眼鏡?なんで?コンタクトなのは知ってるけど、合わないの?」
「えっと…そうじゃなくて、パソコン用の…なんですけど。」
「あぁ、うん。じゃあそんなに高くないし、選びに行こうか。」
「え、今ですか?」
「まぁ…誕生日にはちょっと早いけど、俺が一人で選ぶより本人がいたほうがわかりやすいし。」

 そう言って近くにあった眼鏡ショップに二人で足を踏み入れた。
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