10回目のキスの仕方
* * *

「メリークリスマス。」
「はいっ!今日のご飯も美味しそうです。」
「うん。メインは美海が作ったし。」
「…し、師匠に教わりましたので…。」
「師匠ってほど師匠じゃないけどね。」

 目の前に広がるビーフシチュー。これは美海が作ったものだ。サラダとバターライスは圭介が作った。香ばしい香りが鼻をくすぐった。

「…もっと出かけたいのかと思ってた。」
「え?」
「クリスマスだから。キラキラしたものが見たいのかと。」
「キラキラしたもの…イルミネーションですか?」
「そういうのが見たいから見せてやれってこの前電話きたから。」
「小春さんと日和さんからですか?」

 渋そうな顔をして、圭介が頷いた。

「イルミネーション、嫌いじゃないですが…人混みが苦手です。」
「…そんなことだろうと思ったけど。」
「落ち着いた場所で、圭介くんとゆっくりするクリスマスが…私はいいです。」

 そう言ってゆっくりと圭介に近付き、その腕にそっと身体を寄せた。

「…いきなり…不意打ち。」
「…く、クリスマス…ですから。」

 自分がこんな風に、誰かに頼り、誰かに近付きたくて、触れてほしくなるような人間になるなんて思ってもみなかった。信じたり、大事に想うことに疲れて、もう止めてしまうつもりでいたのに。
 こんなにも温かな人の隣に、とても自然にいる自分。そしてこの時間を抱きしめたいほどに大切だと思える。
 そっと頭の上に落ちてきた、小さな重み。唇がそこにあることに、離れてから気付く。

「け、圭介くん!?」
「美海から攻めてきたくせに、俺が攻めるとすぐそういう顔になる。」
「せ、攻めてないです!」
「攻めました。」
「…は、離れます。」
「離れなくて…いいけど。でも、冷める前にちゃんと食べよう。せっかく頑張って作ったし。」
「はいっ!」
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